第19話 宝石と対策の話

「……。出現が確認されているなら、それが最新の魔王という事になるのでは?」

『魔王、として認められるのは、その本体を明確に確認された場合です。現在は、それらしい存在がある事が「ほぼ確定」している、という状態なので、まだ正式な認定は行われていません』


 ジョシアからそんな確認があったが、どうやらそういう事らしい。まぁ「ほぼ確定」なのは確かなので、対策を立てて行動する必要はあるのだが。

 で。今回直接の問題である狂魔草。その狂魔草を創り出したのが邪神。という所に話が戻って来た。という事はつまり、前提の確認と共有は終わったという事だ。


『邪神についての対策も必要ですが、急ぎ対策し行動しなければならないのは狂魔草です。この狂魔草は説明した通りですが、一番警戒しなければならないのは「狂魔草による死者は狂魔草になる」点でしょう』

「警戒したところで止められるかは別だけどね……。師匠なら魔法で何人でも解毒できるだろうけど、僕だと魔法の形が形だからな。毒で死ぬ前に魔法で殺すぐらいしか思いつかないよ」

「物騒だな!?」


 再び狂魔草が描かれた絵を並べて、教皇マルテが再確認する。それに対してジョシアが対策の難易度を具体的に口に出し、イエンスが悲鳴のような声を上げていた。

 ただ。


「悪いけど、私も同意見よ」

「アリア!?」

「イアリアよ。あぁでも、そっちでもいいのかしら。教皇様、アリアという名の冒険者も一緒に招くつもりだったんでしょう? その正体が予想外に「永久とわの魔女」の弟子だっただけで」

『……そうですね。狂魔草への対策、二度のスタンピードの阻止をした宝石付きの冒険者。狂魔草を相手にするなら必須の人材だと判断し、イエンスとノーンズが行動を共にしていると聞いて、共に招いたのは私です』

「で、それが私に対するサプライズで隠しごとだったんじゃないの?」

「正解。師匠と思ってなかった感動の再会、っていう風になると思ってたんだけど、思ったよりドタバタしてたな」

「……ごめんね、うちの師匠、弟子に関してはあんまり我慢きかないから……」

「出来るだけ我慢したわよぅ」


 ついでに、ここに来るまでのノーンズがはぐらかしていた内容を言い当てて、イアリアも同意した。エデュアジーニでは看病に奔走していたが、あれは人数が少ないからこそ、冬で閉ざされた山の村、その総人口という「極少人数」だったから出来た事だ。

 それこそ、アッディルであの状態になったら、どうしようもない。当時は狂魔草の増え方が分からなかったとはいえ、1人でも死者が出た場合はすぐに結果が見える。そうなれば、アッディルはモンスターに蹂躙されるか、血の海に沈むか。どちらにせよ、地図から消えていた筈だ。

 そしてそれを理解したから、イアリアは持っている手札、もとい情報を、全部ここで出す事にした。


「そしてこの場だから伝えるけど、狂魔草の毒性は固有魔法よ。それもあの草、土から引き抜いたり千切ったり刻んだりしたぐらいじゃ死んで無いの」

「は?」

「自然の魔力か、水分。どちらかから完全隔離した状態で密閉して、狂魔草自体が持っているそれを奪い尽くか追い出し切らないと死なないのよ。そして死ななきゃ無毒化しない、死んだら無毒化するっていうのは、固有魔法でしょう」

「うわ……」

「ちなみに……これね。これが狂魔草の無毒化の方法のレポート。まだ清書までは出来てないから、生データそのままだけど」

「何をやっていたんだい、イアリア」

「冬の山でのんびり過ごそうと思ったら、こいつを見つけたから研究せざるを得なくなったのよ」

「災難だなアリア、じゃない、イアリア……」

「お弟子は優秀だな~」


 途中で色々合いの手が挟まったが、イアリアは全部無視して言うべき事を言い切った。そしてナディネに抱え込まれたまま何とかベルトに着けている、内部空間拡張能力付きの鞄――マジックバッグから、分厚い紙の束を取り出して机に置いた。

 全員の注目が集まるその書類というか、研究結果の塊。情報というものの価値を知っていれば、それが下手な金塊より価値があるどころか、それこそ倍ほどの宝石を積み上げたって釣り合うか分からないのは理解できる。

 そんな、まぎれもない貴重品に、最初に手を伸ばしたのは教皇マルテだった。すっと手を伸ばして手に取り、最初からめくり始める。


『……これは、素晴らしい。予想される懸念への対策が、既に完成されています。我々が見落とした可能性まで着目し、検証して結果を出している……』

「だってお弟子だもの~」

「レポートはこれでもかと書かされたし、その辺少しでも甘さがあったらやり直しをさせられていたから嫌でも上達したわ」

「なぁ、えっと、兄弟子? あ……イアリアって何があったん?」

「あー、うん…………貴族は、色々、まぁ……」


 感嘆を零した教皇マルテ。それを受けてイアリアにほおずりするナディネはともかく、イアリアはちょっと目が死んでいた。

 それを聞いたイエンスがジョシアに聞いていたが、その「これでもかと書かされた」の中には、兄弟子達のレポートを手伝う事になった分も含まれているのは、恐らく覚えていないか、意識して忘れているのだろう。

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