第18話 宝石と戻って来た話
イアリア達が大神殿に到着したのは午前中だった。そこから内部に案内され、イアリアが師匠及び兄弟子達と合流。お互いの状況を確認する流れで冒険者として旅をしていた話をして、教皇マルテがイエンス達を連れて合流し、魔物と魔王に関する話を聞いてと、結構な時間が経っている。
そしてここにきて、「
公爵家の生まれで貴族としてしっかりした血を継ぎ、生まれた直後から貴族としての教育を受けていたハリスですら唖然としていたのだ。今は貴族とはいえ元が平民のジョシアやイアリア、孤児から冒険者になった元冒険者組が「ちょっと待って」というのは仕方ないだろう。
「あー、これこれ」
「そうそう、こういうのがいいんだよ」
「ちゃんと下処理されてるわね」
「下処理が雑だと美味しくないから、それはそうだと思うよ」
「なぁアリア、いやイアリアか。俺らより食生活その、あれだったのか?」
「一応養子とはいえ貴族なんだよな……?」
という事で、話を一旦中断して、昼食を取る事になった。もちろん教会側が用意したものだ。質素倹約を旨とする教会だが、それは無駄遣いをしないという事であって、過度に切り詰めることは推奨されていないらしい。
なので、出てきたのは非常に一般的な量と素材の料理だった。元冒険者組も食べなれた味に、ちょっとほっとしていたようだ。一番馴染みが無かったのはハリスだろう。
一度そこで緊張を切り、息を吐いた事である程度持ち直した9人。食事が終わったら再びナディネはイアリアを抱え込んだが、それをスルー出来る程度には落ち着いたようだ。
『現状確認されている最後の魔王ですが、形は巨人。己の手足を自ら潰し、砕き、切り離すことで魔物へ変えて統率する、非常に高い再生力と知能を持った魔王でした』
「こっちが攻撃しても魔物になってたもんね~」
『もちろん、高い知能を持っているからと言って、悪しき祈りによる悪しき力から生じた存在である事には変わりません。相互理解は無く、和解もあり得ず、滅ぼすか滅ぼされるか。そのどちらかしかない相手です』
そして語られる、現状確認されている限り最後、あるいは最新の魔王。とうとう明確に、知能、という言葉が出たな、と思ったものの、追加された言葉には、イアリアは内心首を傾げた。
何故なら、当たり前の事だったからだ。もちろん裏話を知っていればの話だが、魔物、ではなく、魔獣相手だったとしても、殺し殺される相手に和解が無いのは当たり前の事だろう。と。
ただ、と。教皇マルテは、その線と丸による、子供の落書きのような仮面の顔を、思わし気な形に変えた。
『しかし。知能に優れた魔王は、己の力の源が何かを知っていました。すなわち人間の、悪しき祈り。そこから生じる悪しき力。魔王とは、神が悪しき力の為の器を作り、それが一杯になった時に、器が仮の形をとって出現するものです』
「だから~、倒すって言うのは、中身を空っぽにするって事なのよ~。回復する、魔物を作るのは当然として。魔王が存在するだけでも、その「悪しき力」を使うからね~」
『……逆に言えば。悪しき力が尽きない限り、魔王は滅びません。もちろん、戦い、傷つけることでその力を削る事は可能ですが……理論上は、それ以上の悪しき力が生じ続けていれば、魔王は不滅となります』
ここで話の流れが変わった。あるいは戻って来たのをイアリアは察した。
『ですから、かの魔王は人間に囁きました。欲深い人間を、悪を悪と思わぬ人間を狙い、自分を信仰せよと。自分を対象とする信仰を作れば、その欲を満たそうと』
「これが、ただの魔物ならまだしも~。神様と、眷属の一部を使って、神様直々に創った器だものね~。そこに向けた、ある意味ちゃんとした信仰が集まったら、その結果はお察しというか~……」
『そして魔王が信仰を集め、祈りを集め。それによって出現したのが、次なる魔王……いえ、悪しき力を集める器でありながら、神としての力を得た、邪神です』
そう。
途中で情報的な爆弾が挟まったが、教皇マルテは最初に言った。未来予知で、世界が滅びかける原因は。狂魔草を創り出したのは、邪神と化した神の分霊である、と。
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