第17話 宝石と長い話の終わり

 教皇マルタにより、淡々と魔王の形と滅ぼしたものが告げられる。そしてその途中で世界が滅びかけた、という文言が混ざる事で、イアリアは2つ程推測できた事があった。

 1つは、アイリシア法国の立地だ。大陸の東端、鳥のくちばしのようにとがった部分にアイリシア法国はある。東の海の先に他の大陸があると聞いた事は無く、碌に島すら無い、向こう見ずな人間が時折意気揚々と船を出しては消息を絶つ、果ての無い海だ。

 仮にも世界中に分布し、複数の国に大きく影響を及ぼす事が出来る宗教国家である。その立地が、言っては何だがあまりにも端過ぎるな、と思っていたのだが、違う。



 逆だ。この、大陸の東端。これより東には何も無い最果て。そこ「しか」残らなかったのだ。

 ……人類の、生活圏というものが。



 唯一の安全圏。唯一の生存圏。人間達が最後に辿り着く、滅ぶ一歩手前で団結し、何もかもをかなぐり捨てて死力を尽くし、最後の反撃の狼煙を上げる土地。ここが滅びるという事は、人類の滅びを意味する地点。それがこの、現在アイリシア法国と呼ばれている国がある場所だ。

 そして。そこまで人という種族を追い詰めたのは、魔物という「悪しき力」から生まれた禍。及びその魔物を生み出し、或いは自ら巨大な魔物の姿を取る、魔王と呼ばれる災厄。

 ……まぁ、その「魔王という災厄」は、おおむね欲深い人間のせいで出現するのだから、どこまでいっても自業自得でしか無いのかもしれないが。


「(一部のバカのせいで世界が滅びかけるのは納得いかないけど、それよりも)」


 そして、もう1つの推測。これは恐らく、兄弟子達だけではなく、少なくともノーンズは、何ならイエンスを除く元冒険者達は全員気付いているだろう。もしかしたら、頭自体が悪い訳ではないイエンスも気付いているかも知れない。それぐらいには明らかな事だ。

 教皇マルテにより淡々と語られる、歴代「魔王」の情報。姿形と能力、被害状況。それが代を経るごとに、出現するたびに、どんどんと「知恵を付けて」いる事だ。

 知恵、というのは違うのかもしれない。どちらかと言えば、魔力による変質に近いかもしれない。討伐されては悪い部分を削って良い部分を伸ばして、力が溜まって溢れるだけだというのに、まるで、学習或いは進化しているような。


『――そして、その次の魔王が出現しました』


 そう思いつつも、イアリアは当然、他の8人も、ちゃんと話は聞いていたのだが。


『なおこの魔王が現在確認されている最新の魔王であり、以後魔王が出現していない期間は、我々が確認できている範囲では最長となります。その期間は300年。そしてその魔王を討伐した「勇者一行」の内の1人が、私です』

「ちなみに~、私もそうよ~」


 …………………は?

 と、恐らくその瞬間だけは、話を聞いていたイアリア含む9人の心の声は綺麗に揃った。


『その魔王が死に際に呪ってきた為、私は表情を、ナディネは感情の一部を、ユースは片腕を奪われ、魔王に紐づけられ、不老不死となってしまったのですが』

「ギリギリ、王子様だったのが分かってたエンリーだけは庇えて良かったわよね~」

『なおエンリーとは、現在エルリスト王国と呼ばれている国の初代国王です。……まぁユースについては、ナディネが勝手に自分の腕を渡してしまった為に、ただの不老不死になっていますが』

「私は魔法があるもの~。それに~、お弟子に生身より良い腕を貰えたからこれで良かったの~」


 今度こそ、言葉も無いとはこの事だろう。

 最後の最後で立て続けで情報的な意味での爆弾を叩きつけられて、のんびりと思い出話をしている空気の2人以外は、思考停止するか、素直に意識を手放した。

 ちなみにイアリアはギリギリ耐えて、本当にこのお師匠様は加減しないなと思ったけれど、お仲間の方も感覚ぶっ壊れてるわね、等と、明後日の方向に現実逃避していた。

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