第16話 宝石と長い歴史の話

『託宣によれば。神は自らの一部、そして眷属の一部を用いて、悪しき祈り、悪しき力の器を創り、器が一杯になるたびに、巨大な災厄が出現するだろう。そう警告されました』

「神を聖なるものとした場合の、魔なるもの。その親玉って事で……「魔王」って呼ばれたのは、割とすぐだったらしいね~」


 どうやらお伽噺のような実話はまだ続くらしく、今度はまた一際有名な話が出てきたな、と、イアリアは、真面目な顔は維持しつつ内心で首を傾げていた。正直、自分に降りかかる厄介事で、なおかつ話し手が教皇と師匠という大物中の大物でなければ、とっくに聞くのを止めている。

 何故なら、それぐらいには荒唐無稽の話だからだ。魔王によって世界が滅びかけた、など、夢見がちな子供しか言わない事で。確かに数多くの遺跡が、かつて現在よりはるかに優れた技術を持つ世界が滅んでいる事を指し示しているが、だとしても、何かしらの「災害」というのが通説である。

 ……まぁ今の話的に、その「災害」こそが「魔王」と呼ばれる存在だったのだろうが。「災害」を「魔王」と呼んだのではなく、「魔王」は「災害」だったのだという認識の逆転が起きているだけで。


『その託宣の後、ほどなくして最初の魔王が出現しました。形は肉塊。器として注がれた悪しき力の全てを無数の魔物へ変えて世界へ放ち、己はそのまま自滅しました』

「学園だと「原初の魔物」って呼ばれてる奴よ~」

『それらの魔物を半分ほど倒したところで、次の魔王が出現しました。形は樹木。大地の栄養を吸い上げ、悪しき力を混ぜる事で無数の魔物を生み出し世界へ放ち続けた後、己自身も栄養として魔物に変える事で自滅しました』

「こっちは「冒涜たる生命の樹」って呼ばれてるわね~」


 兄弟子たちが「あれって魔王の事だったのか……」「驚きだな」等と囁き合っているのはスルーして、どっちも自滅してるわね。等と思うイアリア。

 なおどちらも「非常に大規模な被害を出した最悪の魔物」として教えられている。つまり、そこで人間の数は随分と減っているのだ。という事はつまり、悪しき祈りの数も随分と減った筈である。


『それらの魔物の大半を倒し終えた辺りで、次の魔王が出現しました。形は蛭。森程度なら押し潰せる巨大な体躯と、傷をつけてもすぐに塞がる治癒力。旺盛な食欲。毒性のある粘液と血液。これらを併せ持ったかの魔王は、当時もっとも巨大だった国を、その一切を食べ尽くすことで滅ぼしました』

「太陽が落ちた、って伝説のある~、毒の砂漠が出来た原因だったかしら~」

『記録には、当時の魔法使いが命を賭して、消えない炎の魔法を放ったとあります。そして砂漠と言われていますが、砂ではなく灰である事は確認されています。伝承は正しいかと』


 そしてイアリアのその推測は正しかったらしく、今度は出現した魔物の大半を倒すところまで時間を稼ぐ事が出来たらしい。……まぁその次に出てきた「魔王」も大概酷かったようだが。


「……。ハリス、何を言っているかわかるかい?」

「消えない炎か。恐らくは魔法の強度の話だな。それがあると知っているなら出来なくはないだろうが、1人でやるなら同じく命を賭すことになるだろう」

「つまり周りで補強して手伝えば命を賭けなくても再現できるのね」


 ちなみにその説明の後に、弟子組でそんな会話があったが、それは別の話だ。もちろん、教皇マルテの話を聞いていない訳ではない。


「……元魔法使いとは聞いてたけど、発想が怖いよ?」

「そうか? 自分に出せる最大の火力は把握しておくべきだろう」

「いざという時切れる札は1枚でも多い方が良いからね」

「あとノーンズ、この2人は魔法使いというより貴族よ。一応」

「なるほど、僕が付け焼刃だというのはよく分かった」


 途中で話が聞こえたらしいノーンズが参加してきたが、当然、話を聞いていない訳ではない。

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