第13話 宝石と原因の話
やはり、量も密度もあまりにも高いイアリアの話が終わるまでには、それなりの時間がかかっていたらしい。雑談をしばらくというほどもなくしていると、教皇、「聖人」、そして「聖人」の守護騎士が来る、という先触れがあった。
もちろんその「聖人」とは、イエンスとノーンズの双子だし。守護騎士とは、幼馴染でパーティメンバーである元冒険者の4人の事だ。つまりはここまで旅をしてきた関係者である。
先触れから少しして、動く落書きの顔のような仮面を被った教皇を先頭に、教会関係者らしい服と鎧に着替えた6人が部屋に入って来た。……主に後ろの6人が、ナディネに抱え込まれているイアリアを……髪の染色も火傷跡の特殊化粧も落として本来のものに戻った状態の……見て固まったのはさておくとする。
『それでは、世界を滅ぼす要因についての対策会議を始めます』
それ以外の人間、主に教会側の関係者だろう神官は教皇が言葉で遠ざけ、「
どうやらノーンズ達もどこかで「世界を滅ぼす要因」について説明を受けていたらしく、その言葉を聞いても特に様子が変わったりはしない。1つの机を囲んで座った状態で、その机の上に、教皇マルテは何枚かの紙を並べた。
それは、非常に精緻な絵の描かれた紙だった。描かれているのはどれも同じ植物で、無数の植物が生えている光景を描いたのだろうものと、その植物を詳しく描いたものがある。
『冒険者ギルドに確認を取りました。この植物は狂魔草というもので確定、全ての部位に毒がある毒草。魔力による変異を誘発し、魔物を狂わせ、周囲一帯の栄養と魔力を吸い上げ尽くす花です』
そう。狂魔草だ。イアリアは良く知っている。……何故なら、その情報を提供したのはイアリアこと「冒険者アリア」だからだ。もちろんアッディルで狂魔草が大量に発見された事を契機に、冒険者ギルドが国から引き出した情報もあるが。
教皇マルテはその後、部位ごとに毒性が違うとか、幻薬の材料になるとか、どうやって殖えるのかとかを説明していたが、イアリアは全部知っているというか、何割かはイアリアが冒険者ギルドに伝えた情報だったし、エデュアジーニで改めて確認している。
まぁでも、再確認は大事なので黙って聞いておいた。無表情を維持するのもお手の物だ。一応は貴族としての教育を受け、貴族として生活していた時間があるので。
「……胸糞悪りぃな」
「本当にね。……で? それって自然物なのかな?」
そして一通り狂魔草の特徴を聞いたイエンスとノーンズもこの反応だ。本当に自然物か? というのはイアリアも思った事なので、同意しかない。
ただまぁ。改めて思い返した事で浮かび上がって来た不審点。ここまでの経緯。そして、それ以外の不穏な情報。諸々の要素を組み合わせた場合、恐らく狂魔草は、純粋な自然物では無いのだろう。と、イアリアは推測している。
改めて情報の再確認をした教皇マルテの話を聞きながら、イアリアは自分の旅路を思い出し。そして、さっきは師匠であるナディネに阻止された思いつきと気付きを、しっかりと掴んでいた。まぁ、掴んだからこそ、ちゃんと全員で話した方が良い、というナディネの判断を妥当だと結論付けた訳だが。
『教会の判断としては、自然物となります。不自然な、人為的なものではありません』
だからこそ、その言葉を聞いて、思わず目を眇めてしまったのだが。
不審な、というか、不可解な言葉だ。そう判断したのはイアリアだけではなかったらしく、視界の端では兄弟子ハリスがぐっと眉間にしわをよせ、同じく兄弟子のジョシアも軽く首を傾げている。
元冒険者組も、それぞれにおかしいと思っている様子を見せているから、少なくとも自分が間違ってる訳ではないなと思ったイアリア。そしてそれは、そう言った本人である教皇マルテにとっても妥当な判断だったのだろう。
『教会の定める自然と不自然の基準は、神によって創られたか否か。この狂魔草は神によって創られた存在。よって自然物となります』
信者にとっては当たり前の事だから、そうと判断したと伝えた。
訳では、なく。
『ただし。その神は、我らが祀り崇め讃える神そのものではなく。悪を悪とも思わぬ一部の人と、その欲によって歪められ、分離、零落し、邪神と化した神の分霊です』
それこそが、本題にして元凶。世界を滅ぼす、その主体だったからだ。
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