第10話 宝石と対処すべき問題

 ナディネの弟子だから、という理由で教皇直々に「未来予知」とやらの詳細を教えられたらしいハリスとジョシア。もちろん兄弟子達が妹弟子だけ「知ってはいけない情報」から逃げることなど許す訳がない。

 という部分が無いとは言わないが、それよりも、この情報が絶対に必要だから教えられたし、イアリアも何かしらの「戦力」として数えられているから今教えているのだろう。

 ……と、納得できなくは無いのだが、その詳細を実際に聞いてみて、早くもイアリアは後悔していた。


「やっぱり耳を塞いで叫び続けていればよかったわ」

「お弟子の声は好きだけど、流石にマルテちゃんは驚くでしょうね~」


 神殿は、光と闇の適性を持つ魔法使いを「聖女」あるいは「聖人」として扱い、迎え入れている……或いは集めている。これは信仰対象である創世の女神の事を考えれば当然なのだが、それは表向きの話だったらしい。

 というのも、どうやら世間一般には知られていない事実として、「魔力を有している」にもかかわらず、魔法も使えなければ魔石を作り出す事も無い人間がいるらしい。そして彼らは例外なく、「魔法ではない」何かしらの特殊な力を有しているのだそうだ。

 そして教皇の「未来予知」というのもその1つであり、眠っている時の夢か、水面に映像が映し出される形で未来の可能性が見えるのだそうだ。そしてその映像が鮮明である程起こりうる確率が高い。


「で、私が大聖堂に来る光景が、それはもうくっきりと見えていたから、大丈夫だろうと……」


 なお未来予知をするには眠るか水面を覗き込めばいいらしいんだが、どこの誰のどれくらい先の未来が見えるかは全く不明。最大100年後の未来が見えた事もあるらしい上に、可能性の低い未来の場合は見えにくいから特定が大変なんだそうだ。

 しかも1回未来予知の力を使うたびに結構な量の魔力を消費するらしく、あまり回数を増やす事も出来ない。と、デメリットはたくさんあるらしいのだが……それでもイアリアは、反則なのでは? と思った。

 予知した未来は変えられる。だがそれは、知った上で変えるかどうかを選べるという事だ。そもそも未来が分からない状態とは雲泥の差だろう。少なくともイアリアは、自分の魔力暴走によって生まれた村が滅ぼされる事を知っていれば、どれだけ怒られても必死で我慢した筈だ。


「で、本題なんだけれど。どうやらその未来予知に、かなり可能性の高い「悪い未来」が出てきたらしい」

「……師匠だけではなく、弟子である私達まで戦力に数えるって事は、相当に悪そうね」

「うむ。何しろ世界が滅ぶらしいからな」


 ジョシアが説明し、イアリアはそれに感想を零す。そしてそれに続いて、しれっとハリスが結論を言った。

 数秒、イアリアはその言葉が理解できなかったのだが。


「…………は?」

「世界が滅ぶらしいぞ」

「は!?」

「うんうん。分かるよ。僕らも話を聞いた時は同じように信じられなかったから」


 思わず聞き返しても同じ言葉が返ってくる。しかもジョシアに至っては、その反応に同意を示しつつ頷いている。……という事は、どうやら本気らしい。しかし、世界が滅ぶとは。


「一気に話が大きくなったわね?」

「落ち着くのが早いな。まぁその方が助かるけど」


 話が理解できずに固まる兄弟子達を思い浮かべると冷静になれた、とは言わないイアリアだった。


「ただ、どうにも普段の予知と違って、可能性は高そうなのに状況が良く分からないらしいんだ。流石に魔力を使うと言っても能力自体は特殊だから、外から手を出すって訳にはいかないし」

「……それでも、世界が滅ぶ、というのは分かったのよね? という事は、少なくとも滅んだ光景や、滅ぼした原因は見えたって事じゃないの?」

「それはそう。なんだが、どうしてそうなったのか、まではまだ分からないらしい。というのも、その予知に出てきた滅びの原因っていうのがかなり特殊であり得ないものらしくって……いや、イアリアなら知ってるかな」


 世界が滅ぶのは分かっている。しかし、状況が良く分からない、とは? と首を傾げたイアリア。それに対してジョシアもちょっと首を傾げつつ説明を続けたが、途中で何か気付いたらしく、首を反対に傾げた。


「狂魔草、という植物が全てを覆い尽くしている光景だったそうだ。僕らも、何かの資料か図鑑で見た覚えがあるようなないような……って感じでね。分かるかい?」

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