第9話 宝石と情報共有

 どうやら教皇マルテは「聖人」候補である双子を待っている間、談笑しに来ただけだったらしい。……だけではないと思うのだが、もうそこは考えないことにしたイアリア。

 そして「聖人」候補である双子が「聖人」になる為の儀式の準備に入ったという事で、マルテも退室していった。そしてこの部屋には、「永久とわの魔女」ことナディネとその弟子達だけが残される。


「で。そろそろ色々説明してもらえるかしら」

「お弟子がフードを取ったら始めるわ~」

「……ちょっと待って頂戴。特殊なお化粧をしているのよ」


 他の気配が全くなくなったのを確認して、早速とイアリアは口を開いた訳だが、その前に顔に施した火傷跡の化粧と、変えていた髪色と髪質を元に戻す事になった。この部屋は水場があるらしく、ささっと元通り、焦げ茶の癖っ毛と傷1つない肌に戻ってくるイアリア。

 そしてまず、イアリア側の状況を説明する。ザウスレトス魔法学園にあるナディネの研究棟から不本意に姿を消してから、どう移動し何が起こってアイリシア法国まで来ることになったかの紆余曲折をだ。

 ……戦争中断の為に、山を崩して隣国との道を使えなくした、と言った時には、主に真面目で頭が回る方の兄弟子であるジョシアはちょっと顔を引きつらせていたが。まぁ、あの時のイアリアは、心底キレていたので。なお、今も怒りそのものは収まっていない。抑え込んでいるだけだ。


「にしても、ただの人に転移魔術を使わせられるほどの魔力、か……」

「流石に似たようなことが2度続けば、ただの魔力暴走かそうじゃないのかは分かるわよ。あの規模で完全制御なんて無理だろうから、ある程度暴走はしてたでしょうけど」


 イアリアが自分に起こった事と、現在把握している情報を開示したところで、今度はナディネ達、というか、ナディネと兄弟子達がそれぞれどう行動してここに集まる事になったのかの説明が始まった。

 2人の兄弟子、白銀の髪に赤い目のハリスと金髪に碧眼のジョシアは、マケナリヌス男爵、最初にイアリアが養子として籍を置いた貴族の当主に詰め寄り、魔力暴走からギリギリ逃れたところまでしか知らないイアリア。まぁ今ここにいるのだから、とりあえずは無事だったのだろうが。

 師匠であるナディネに至っては、イアリアと同じく魔法使いから魔石生みへと変わったマッテオ・ジェイ・ラッチフォード元神官長(重罪人)の身柄をもらい受けに行ったっきり、一切連絡が取れていない。


「といっても、僕らの方だけで動いた部分はほとんどないよ。何しろ派手に結界が壊れたからね。すぐに師匠が戻って来て、そこからはずっと一緒に行動してたし」

「驚いたわ~。話をしに行ったらマルテちゃんが出てきて~、色々お話していたら、いきなり結界が壊れるんだもの~。お弟子がいなくなっているし~」


 ぎゅむ、と、戻って来たイアリアを再びぬいぐるみのように抱え込んでいるナディネ。イアリアはとっくに諦めの境地だ。不本意ながら慣れてしまった部分もある。

 まぁそれはともかく。イアリアからすれば大部分が不明だったナディネの行動だが、まず最初はエルリスト王国東端の、アイリシア法国との国境に位置するディラージへ向かったらしい。罪人であるマッテオ元神官長はまずここに護送されて、元神官長という事でその罪をエルリスト王国とアイリシア法国のどちらで裁くのか、という話し合いが行われている間、拘留されている筈だからだ。

 だが、護送されたのは秋の頃で、ナディネが向かったのは冬が明けた後。当然既に話し合いは終わって、マッテオ元神官長はアイリシア法国が預かって裁く事になり、国境を越えていたのだ。


「だから~、大聖堂に直接移動したんだけどね? そこでマルテちゃんが出てきて~、元魔法使いの魔石生みを調べたいって言ったら、今調べてる最中だって言うのよ~」

「……教会も調べていた、という事?」

「そうみたいね~。だから身柄を渡す訳にはいかないけど、調べるのを手伝ったらその成果は持って帰っていいって言われてね~。そのままここでお手伝いしてたのよ。そのマッテオって人以外にも、何人か「保護」してたみたいだし~」

「ちなみに、そのさなかに例の魔力暴走があったみたいで、合流してからは僕らも避難を兼ねてこっちに移動して、そのまま手伝いに参加してるよ」

「意外と人数がいるものだな!」


 という事をしていたらしい。

 ただまぁ当然ながら、イアリアがいない事に気付いてもなお、ナディネがアイリシア法国に留まっていたのには理由があるようだ。まぁ理由なしに留まる訳もないだろうが。

 で、その理由というのは何だったかというと。


「マルテちゃんがね~。お弟子は近いうちに、この国に来る筈だから、待ってた方が早いって言ったのよ~」

「は?」

「イアリア。教皇は未来予知が出来るらしいよ。それもかなりの精度で。もちろん、秘中の秘、ってやつみたいだけど」

「さらっとそんな重要な事を教えないで貰える?」

「もう逃げられないんだから、正確な情報は必要だろう?」


 イアリアは頭を抱え、ようとして、ナディネに抱きかかえられている状態では出来ずにただ顔を引きつらせるしかなかった。

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