第23話 宝石は脱出する
至近距離で、非常に強い光が発生したらどうなるか? 当然、しばらく目が使えなくなる。当たり前のことだ。
そしてその強い光の発生を知っていたのはイアリアとノーンズだけなので、モルガナの姿をした何かの醜態に視線が集まっていた事もあり、あちこちで悲鳴が上がった。
ただし、イアリアが使った魔薬型の閃光弾は、音を伴わない。なので強い光を直視してしまったことによる悲鳴の中に、ドンッと突き飛ばすような音が混ざっている事をしっかりとイアリアは聞いている。
「さぁて逃げるか!」
「たいへんなことになったわね」
「はぁっ!? ちょ、おいノーンズ!? アリアも共犯かよ!?」
してやったり、という楽しさを隠し切れていないノーンズ、棒読みが過ぎるイアリアの言葉に、ノーンズに担がれたイエンスが驚いているが、反応している時間が惜しいと2人共無視する事に。
今の強烈な閃光こそが本命だった。もちろんこれが不発だった時の準備もしていたが、上手くいったので『シルバーセイヴ』の冒険者も手筈通りに動いている筈だ。なのでノーンズとイアリアは、まっすぐに領主館の外を目指す。
そして合図を兼ねた閃光が上手く伝わったのか、出口へとつながる扉は全て開いていたし、本来そこを守っている兵士や近くにいる筈の使用人はどこにもいなかった。
「リーダー! こっちだ!」
「もうリーダーじゃないけど、頼んだよ」
「あっはっは。クランじゃなくてパーティでもリーダーでしょ」
「そう言えばそうだった」
そして外に出れば、既にそこにはいつでも出発できるだけの荷物を積んだ馬車が待機している。まずまだ事態を飲み込めていないらしいイエンスを馬車に放り込み、そこにイアリアが続いて、最後にノーンズが乗り込んだ。
乗り込んで扉を閉めた瞬間、馬車は走り出した。もちろん最初から最高速度だ。ヒルハイアスの街の中は大丈夫か、と思う所だが、そこは冒険者ギルドが上手く手を回してくれている筈である。
実際、一応イアリアは顔布をつけたまま外の様子を窺っていたが、実質暴走馬車と化している前に飛び出してくる人や逃げ遅れた人はいないようだ。なのでそのまま、推定理論上最短でヒルハイアスを駆け抜ける。
「ほらリーダーとアリアさん、札出して」
「はい」
「頼んだ」
そして、本来ならそれなりに時間のかかる検問も、どうやら冒険者ギルドが手を回してくれたらしい。ほとんど通り抜けるだけだった。
魔力を感知する魔道具の対象から外れる木札。それを返還して、再び馬車は走り出す。とはいえ、今度はやや早いぐらいだが。
「……とりあえず、ノーンズが本気出すぐらい俺がヤバかったんだっていうのは分かった」
で。
そこまでを、途中からは引き攣った顔で黙って見ていたイエンスの第一声がそれだった。ノーンズの本気、と聞いて、恐らくノーンズがクランを結成する前からのパーティメンバーは顔を見合わせ。
「それはそう」
「つーか俺らもだからな?」
「久々に全員でマジになったわよ」
「何年音信不通だったと思ってやがるこのバカ」
「そこまで言われる事ある!?」
「今回は9割お前が悪いからなイエンスー」
「9割!?」
次々に同意の言葉を投げつけてきた。御者を務める冒険者も一泊遅れて同意する。
「本当かアリア!?」
「何故そこで私に振るのかしら。まぁあなたが悪いと思うけど」
「部外者のアリアでも分かる程!?」
イアリアにも話が振られたが、そこはばっさりと周りに同意しておいた。まぁ当たり前なのだが。9割とは言わないが、それでも割とイエンスが悪いのは確かだからだ。
まぁ、根本的に言えば、イエンスが何も出来ないように、何も気づかないように、何も考えられないようにした「洗脳」能力が悪いのだが。
「まぁ、アイリシア法国に向かうのは決定だ。エルリスト王国を横断するからね。時間はたっぷりある」
「えっ」
「そうね。今回の騒動と醜聞で、当面サルタマレンダ伯爵は動けないでしょうし」
「えっ」
「まぁイエンスはしっかり怒られろ」
「異論なし」
「そうだな。お前がいない間の苦労をしっかり聞け」
「えっ?」
ともあれ。ここからはサルタマレンダ伯爵家からの追手を気にしつつ、一路アイリシア法国へ向かう事となる。
……ただ、最短ルートだとザウスレトス魔法学園は遠いのよね。と、イアリアは口の中で呟いたが。
まぁここまで来たら乗り掛かった舟だ。少なくとも、ノーンズの近くに居る方が安全なのは間違いない。と、問題を先送りする事にしたのだった。
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