第17話 宝石は備える

 もちろんノーンズもパーティ用の衣装を持っている訳で、準備が終わった瞬間に戦争が中断されたというかせざるを得なかったという情報がエルリスト王国を走り抜けたものの、戦争も突然だったためか、パーティそのものは予定通り行われる事となったらしい。

 すなわち、パーティ5日前ともなれば、続々と貴族がハイヒルアスにやってくるという事だ。戦争が行われていれば途中で足を止め、何ならそこから引き返していただろうが、今回に限ってはそのまま来たらしい。

 まぁ、戦争が始まったかと思えば数日も経たずに中断された。控えめに言って訳の分からない状態だ。その実情を確認する、という意味でも、人が集まっているのだろう。


「で? その「お客様」がやらかした結果、魔薬の需要が増えている、と?」

「そうなりますね。代金に関してはちゃんとお支払い頂くのですが、魔薬の味に文句を付けられましても困ります」

「酒か何かと勘違いしているのかしら」


 そして魔薬の依頼をあらかた片づけた筈なのに、再びこれでもかと魔薬の納品依頼が張り出されるのを見て、冒険者ギルドのギルド職員に確認を取ったイアリアが聞いた話がそれだ。

 正直な感想を言えば、はた迷惑な、に尽きるだろう。というかよく聞けば、代金に関しては、ちゃんとお支払い「頂く」と言っているので、そこに関してもごねているらしい。

 貴族的に、同格の貴族には見栄を張るのが仕事である。だがそれ以下の平民に関しては、横暴な態度でゴリ押しで何とかしようとするケチ臭い奴がいる。特に、体面を気にするくせに金を稼ぐ才能の無い貴族に多い。


「そんな相手にはもういっそ、癒草をそのまま出してやりたくなるわね」

「そもそも、体調不良でもないのに魔薬を常飲するというのがおかしいのですが」

「何の薬だと思っているのかしらね。傷を癒す効能はあっても、病への効果はそこまでではないわよ?」


 もちろん病を治す魔薬もあるにはあるが、こちらは作成難易度が段違いだ。何しろ病によって素材も製法も変わる上に、事によっては使用者の体質まで影響するのだから、ほとんど個人に合わせたオーダーメイドとなる。

 イアリアも一応作れはするが、オーダーメイドの依頼があっても受けるつもりは無かった。何しろそんな依頼を出す相手は、本当に藁にも縋るような思いをして切羽詰まっているか、難癖付ける前提だからだ。どちらにせよ、拘束時間が長い上にそのままなし崩しで取り込まれかねない。


「美味しい傷を癒す魔薬と言われましても、心当たりはありますか、アリア様」

「味草のスープなら適当に作っても美味しいわよ?」

「なるほど、確かに。……ちょっと調べものの予定を思い出しました」

「そう。頑張って」


 まぁ、その途中で、ちょくちょく強い光を浴びて「洗脳」を解除している冒険者ギルドヒルハイアス支部のギルド職員は、あんまりよろしくない可能性に気付いて奥へ引っ込んでいったが。

 そんな訳で、ここまで以上にわやわやしているヒルハイアス。だからイアリアも基本は出歩かず、冒険者ギルドに行く時は『シルバーセイヴ』所属の冒険者と一緒に行動する等、護身を徹底している。

 国境に接する街という事で、出入りの時の検査はとても厳しい。だが、門番をしている相手にも「洗脳」が及んでいる可能性がある上に、貴族は魔法使いである割合が高い。


「……完全に、っていうのは、まぁ無理な話なのよね」


 だから余計に警戒しているし、「洗脳」を防ぐ魔道具は常に身に着けている。ノーンズもそれは分かっているらしく、一緒に行動する事が多い……と書いて、恐らくイエンス奪還の実働班になる……冒険者に、「洗脳」を防ぐ魔道具を渡していいか、と聞きに来ていた。

 もちろんイアリアに断る理由は無い。追加でその分の銀の髪が貰えるならばなおさらだ。むしろ効果を上げて結果的に節約する事で、ある意味とても貴重な素材を溜め込もうと画策している。


「それにしても、最初より躊躇いなく渡すようになったわね?」

「魔薬はダメでも、普通の食材なら効果があるらしい」


 ……どうやらそこには、イアリアがテコ入れした、髪に良いとされる食材を食べ続けた結果もあったようだが。

 男性の髪へのこだわり、というか、髪が無くなった状態への恐怖って、分からないわね。等と、魔道具を作りながら呟くイアリアだった。

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