第11話 宝石は仕立てる

 一度大人数にしっかりと容姿が確認されて、なおかつそれが噂通りの印象を与えるものであったら、興味本位の手出しはほぼ無くなるものだ。

 実際、イアリアのマントを不意打ちで剥ぎ取り、手痛い反撃を食らった少年冒険者と、彼とパーティを組んでいる同年代の冒険者達が顔を真っ青にして謝ったあの一件以来、数日が経過するが誰もその話題に触れようとしない。

 もちろんそこには、イアリアがほぼほぼ自室に引っ込んで出てこないという冒険者にあるまじき引き籠り生活をしているというのもあるのだが。流石に食事の時は出てくるものの、そこから会話も続かなければ同行も断られる。


「一応生きてるのは確認できてるけど、流石に限度があるんじゃないかなって」

「貰った髪の長さで出来るだけ効率のいい魔道具を研究するので忙しいのだけど? ちなみに異常を打ち破る方向に向けた試作品を何人かに流したら、その場で壊れて洗脳が解けた様子だったわ」

「分かった、続けてくれ」


 一応ノーンズが様子を見に来たりもしたが、ぐうの音も出ない理由でしかも結果が出ているとなれば、それ以上に言える訳がない。若干『シルバーセイヴ』内部では、イアリアが魔薬師ではなく魔道具師なのではないかという噂が出ていたが、まぁそれも仕方ないだろう。

 ちなみに成果が出たという事で、ノーンズはさらに追加で1m程の長さの髪をイアリアに渡すことになった。魔石と一緒に組み込む事で効果が増幅されるのは確定したし魔石はいくらでも作れるが、やはり元の素材は必要なので。

 そんな訳で、比較的平和な時間を過ごしていたイアリア。もちろん魔道具を作る事が主目的だが、魔薬だって作っている。


「……。流石に髪の毛を食べる物に使いたくは無いけれど、モンスターの素材で毛や羽を灰にして使う事はあるわね……」


 みたいな葛藤があったりしたようだが、一応魔薬の素材にノーンズの髪を使う事は自粛したイアリア。その代わり、魔道具の作成には精を出していたが。

 さてそうこうしている内に、イアリアがヒルハイアスに来てから1週間が経過していた。呼び出し状を受け取ってからの移動に5日かかっているので、本番であるところのイエンスの婚約パーティまで、あと18日となる。

 この日イアリアは、『シルバーセイヴ』の本拠地に移動してから初めて外に出ていた。その行先は冒険者ギルドだ。冒険者としては当たり前の行動なのだが、周りからの注目が集まっていた。


「衣装の確認に来たのだけど」

「アリア様ですね。奥の部屋へどうぞ」


 もちろんそんな視線を気にすることなくイアリアはギルド職員に声をかけて、そのまま奥へと移動していく。そう。用事とは、婚約パーティに出席する為の衣装、すなわちドレスに関するものだ。

 流石に正式なパーティであり、一応正式に招待されていて、到着してすぐに挨拶に行った以上は時間もある事が知られている。となると流石に冒険者ギルドにある調節が可能なドレスで済ますという訳にも行かない。

 大変面倒であり、嵩張る上に値段が張って実用性の無いドレスなどを買う必要がイアリアには全く思い浮かばない訳だが、それが貴族を相手にするという事だ。なのでせめて実用性の部分だけでもどうにかならないかと、冒険者ギルドに相談していたのだ。


「色は良し、形も……えぇ、動きやすいわ」

「アリア様は魔薬師という事で、小物でしたらあちこちに仕込めるようにしてあります」

「流石に内部空間拡張能力付きの鞄マジックバッグは持ち込めないかしら」

「そうですね……少々取り出しには時間がかかりますが、腰の辺りの飾りを工夫すれば可能かもしれません」


 当然だが、通常のパーティにこんなドレスとは名ばかりの、実用性に溢れすぎた「装備」をしていく必要は無いし、作ろうとした時点で冒険者ギルドやドレスを注文した工房で止められる。

 だが今回、冒険者ギルドヒルハイアス支部は正体不明の力の存在を知っている。そして日数が経過した事で何か情報が追加で出てきたのか、その警戒度は上がっているようだった。

 なので冒険者ギルド全面バックアップの元、ドレスの形をした屋内戦闘を想定した装備が作られている訳だ。もちろんその工夫はお値段に反映される訳だが、イアリアは冒険者として結構な金額を稼いでいる。


「魔薬で染め直せば何度も着れるかしら」

「形はベーシックですし、染め方によっては大丈夫でしょう」


 その稼いだ金額を遠慮なく突っ込めば、まぁ、質をどれだけ上げても大丈夫だ。

 なおかつイアリアは、どうせ外に出るのだからついでにと、例の洗脳を打ち破る魔道具(試作品)を冒険者ギルドに持ち込んでいた。使うノーンズの髪の量もだいぶ減らせたので、数が作れている。

 もちろんその魔道具も冒険者ギルドが買い取る形になる為、更に使える金額は増えるぐらいなのだった。

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