第10話 宝石は暴かれる

 魔道具を修理し、より長持ちするように改造するにはどうすればいいか、と考えている間に時間が経ったらしく、鍋の底を叩くような音が響いた。これが昼食の合図だと聞いていたイアリアは、部屋をしっかりと施錠してから食堂に向かう。

 そこで予定通り、ノーンズによってイアリアこと「冒険者アリア」は紹介された。最初の歓迎っぷり通り、その場では拍手をもって迎え入れられ、特に問題は起こらなかった。

 若干名、その下ろしたフードの下の火傷跡は本当なのかと尋ねる声も上がったようだが。


「興味本位なら止めておきなさい。怖いもの見たさなら、あなたの顔に火傷跡を作ってあげましょうか」

「はいはい待った待った、そういう軽い言い方の時は本気でやる時だから、迂闊な発言をしないように。いいね?」

「ちなみに、仮面なんかで塞ぐと蒸れて膿むし、化粧で隠せば染みてのたうち回る事になるし、包帯だと現在進行形の怪我と紛らわしいからこういう形で隠しているのだけど。他にいい方法はあるかしら」

「アリアもあまり煽らないように」


 と、イアリアが自力(?)で黙らせていた。

 後で聞いた事だが、ノーンズが抑えに回るというのは滅多にない事らしい。基本は自由にさせる方針だし、周辺被害が出ないと判断すれば喧嘩も笑って眺めているだけなんだとか。

 そのノーンズが動く前に止めにかかったという事で、イアリアが「言ったら本気でやる」という事の信憑性が跳ね上がったらしい。


「ところで」

「やるわよ? 当たり前じゃない。口から出た言葉の責任は取らないといけないわよね?」

「やらないでくれ」


 イアリアはこの通りだったので、抑えに回ったノーンズの判断は正解と言えるだろう。もちろんイアリアも、周辺被害ぐらいは出来るだけ抑えようとするだろうし後の禍根を残さないようにはするだろうが、容赦はしないので。

 さてそんな訳で昼食は平和に終わり、イアリアは自室へと引っ込んで魔道具の改良に取り掛かった。色々と形を工夫したり魔石を使ってみたりしている間に時間は過ぎて、意識が戻ったのは、再び鍋の底を叩くような音が響いた時だ。

 夕食の時間を告げるそれに、イアリアは素直に従って部屋を出る。もちろん施錠は忘れずに。食堂に集まった冒険者は昼よりも増えていたが、それでも半分以上は昼時にも見た顔だ。だからイアリアに余計なちょっかいをかける事も無く、賑やかなままそれぞれ動いていく。


「隙ありぃ!」


 の、だが。

 そんな中で、突然少年のような声が響いたかと思えば――イアリアの着ていた雨の日用の分厚いマント。それが突然剥ぎ取られた。当然、隠されていたイアリアの姿があらわになる。

 その瞬間イアリアは食事をとる皿を手にしたところで、不意打ちなのもあって反応は間に合わない。というか、それを狙っての不意打ちだったのだろう。


「――失礼なお子様がいたものね」


 ただまぁ……相手が悪かったが。

 無事にマントを剥ぎ取る事には成功した。成功したが、そのマントを貫通する形で、針というには長い、鉄串のようなものが犯人に突き刺さっていたのだ。もちろんイアリアが片手で投げたものである。

 イアリアが使うのだから当然ただの鉄串である訳もなく、当たり前のように毒が含まれている。それに使ったのは、厳密に言えば串ではない。


「ちょ、ちょっと待て、あれってビッグ・ビーの針なんじゃ……」

「え、って事は中に毒が?」

「おい、泡吹いてるぞ!?」

「ただの痺れ薬だし、解毒薬は持ってるから大丈夫よ。マント、返してちょうだい」


 小さな子供ほどもある蜂。魔力で巨大化するという変異を起こした蜂の一種であり、その尾にある針は毒を注ぎ込む為、中空になっている。強度もあるししなやかなので、投擲武器として人気が高い。

 で。着地した筈の場所で倒れて動かなくなった人物に集まっていた注目が、次の発言でイアリアに集まる。――かと思えば、大半がすぐに逸らされた。

 まぁそれはそうだ。何故ならイアリアは、髪の色と質を変えた時点で、顔の左半分と首筋までを覆うケロイド状の火傷跡を「作って」いたのだから。


「……目を逸らすぐらいなら、最初から見ようとするんじゃないわよ」


 流石に目の色までは変えられないが、それでもだいぶ印象は変わるだろう。というか、火傷跡が目立ちすぎて、それ以外が印象に残らない可能性が高い。もちろん、それを狙っているのだが。

 髪の毛と同じで、この火傷跡も魔薬による特殊な化粧のようなものだ。なので水では落ちない。もし水を被せられても安心だった。

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