第8話 宝石は移動する
師匠である「
……ちょっと怪しいかしら。と、昨日の失態というか頭の悪い様子を見たイアリアは疑ったりしていたがともかく。少なくとも、モルガナの姿にイアリアが反応を見せるのは、間違いなく相手が狙った事なのだから。
それにそもそも、面会の翌日には予定があった。それは。
「でも本当に良かったのかい?」
「他に選択肢はないでしょう。貴族にまで挨拶をして、普通の宿に泊まってると何を言われる事か分からないわよ」
ノーンズと共に、クラン『シルバーセイヴ』の本拠地に移動するというものだ。そのままパーティ本番までそこで過ごす予定となる。
一応昨日の、サルタマレンダ伯爵との面会は「冒険者アリアが有名クラン『シルバーセイヴ』に加入した」という事の報告だった。普通はそんなもの必要ないのだが、一応「冒険者アリア」は、サルタマレンダ伯爵が招待状を出した相手だ。
とはいえ、それが建前以外の何物でもないのはイアリアもノーンズも分かっている。それでもなおそれに準じた行動をとるのは、それ以外の行動をとるとそれを契機として更に余計な手を出されるからだ。
だが建前に応じた行動をとるという事は、相手も分かっている事だし、相手の狙い通りでもある。つまり相手の思惑通りにいくための要素があるという事だ。
「……僕も仲間を疑いたくはないんだけどなぁ」
「今更でしょう。というより、遅いぐらいじゃないの?」
「返す言葉も無い」
すわなち。『シルバーセイヴ』内に、元凶の手先がいる可能性が高い。
まぁ、普段なら何も問題は無い事だ。元凶が関わること以外では普通の人間なのだから。そもそも手先と言っても、その自覚があるかどうかすら分からない。そういう手段を使う相手なのだし。
それに組織を疑う場合は、そのトップを真っ先に疑わなければならない。今回に限ればその可能性が絶対にない……何故なら絶対に影響を受けないノーンズがそうなので……のは朗報だろう。
「本当は魔道具を量産できればいいのだろうけど、たぶんあなた、毛生え薬も効かないわよね?」
「試した事は無いけど、効かないだろうね。……突然絶望を投げつけてくるのは止めてほしいな?」
「髪に加護があるんだからそれこそ杞憂よ」
そして手っ取り早く味方を増やす為には、ノーンズの体の一部を使った魔道具をたくさん作るのが確実だ。が、ノーンズは人間である。どうやら内部空間拡張能力付きだったらしい鬘の中に収められた髪の長さはかなりのものらしいが、それでもクランに属している冒険者全員には行き渡らないだろう。
そもそも、影響を防ぐ魔道具は使い捨てだ。だからこそ毛生え薬という話が出たし、それに対して「毛生え薬が効かない」という事実を認識してノーンズが凹んだりしていたが、それはともかく。
実質味方は増やせないし、イアリアとて自身が持っている魔道具を手放す気は無い。効率を上げるとしても限界がある。よって、ノーンズは頭が痛そうにしつつも、イアリアの警戒に賛成している訳だ。
「しかしそうなると、髪の毛以外でイエンスに関する事が分からなかったのもその辺に理由がありそうかな」
「ありそうというか、あるでしょうね。髪の毛と一緒に送られてくる手紙を握り潰すとかぐらいは」
「まぁそれはそうか」
とはいえ、ノーンズの優先順位もはっきりしている。その辺、いくら仲間であってもすっぱり割り切れるようだ。その辺の判断は流石冒険者というべきか。
「冒険者としてはかなり信じられてたんだけどな。末端はともかく」
「今回の件についても信用できるといいわね」
「冒険者ギルドがあの調子だからな……元凶と直接接する必要があるとかなら大丈夫なんだけど」
「少なくとも、直接会った人間から伝っていくように影響を及ぼす事は出来そうね」
「流行り病みたいなものだと思うと、どこであっても危険なんだよなぁ」
「流石にその影響力と範囲に限界があると思いたいところね」
「そういう時は上限が無いって思うのが冒険者流の生き残るコツ」
「それ、冒険者じゃなくて戦略家じゃないの?」
ともあれ。
ノーンズがリーダーを務めるクランの本拠地、ヒルハイアス南東に位置する、複数の建物を買い上げて統合、1つに建て替えたという、本来ならばいろいろな意味で堅牢で安心できる筈の場所へと向かうのだった。
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