第4話 宝石は到着する

 さて。5日の旅を終えて到着したヒルハイアス。イアリアは無事に街の中へと入れていた。ノーンズが一緒だったというのもあるが、イアリアも冒険者カードの宝石を見せたら、あっさりと魔力を探知する魔道具のターゲットから外れる木札を貸し与えられた。

 ノーンズの方も何か魔道具を持っていたらしく、木札を貸し与えられている。そしてそれを付けて移動していった先は、冒険者ギルドヒルハイアス支部だ。ノーンズによればこちらにも既に連絡がいっているらしい。

 何のかと言えば、まぁ、冒険者ギルドに何らかの干渉が行われている事と、サルタマレンダ伯爵周辺か、最悪本人にあまりよくない類の影響が出ている事、そしてイエンスとノーンズがその何かのターゲットになっている事だ。


「……まぁ、ここは伯爵様のお膝元だからね」

「それはそうよ」


 なので冒険者ギルドヒルハイアス支部に到着して、まずその連絡及びそれに対してハイヒルアス支部が独自で動いた結果を共有したのだが。道中で大体予想していた通り、その結果は芳しくなかった。

 まぁ当たり前と言えば当たり前だ。これが本来貴族を相手にするという事なのだから。しかもその、貴族の家という組織の末端ならばともかく、その中核を成す人間や貴族本人が調査対象となれば、普通は何年も時間をかけて慎重に行うものだ。

 それがたかだか、百年遺跡支部からその日のうちに連絡が届いても数日だ。どう頑張っても無理がある。逆にこれで何かわかったら、そちらの方が怪しいし危険だろう。


「まぁ、ここの支部が比較的無事だった方が安心かな」

「影響を受けて貴族としてぐずぐずになっている訳でも無くて良かったわね」


 そういう事だ。何かの影響も未知数だが、隣国パイオネッテ帝国が戦争を始めるという話もある以上、貴族の家という組織はしっかりしておいてほしい。

 情報を受け取ったノーンズとイアリアだが、ここで冒険者ギルドでしばらく待機だ。何故なら冒険者は冒険者ギルドに立ち寄るものなので、今回のように貴族からの呼び出しがあった場合、まず冒険者ギルドから貴族へと到着の連絡が行われる。

 大体の場合は数日開けて貴族の家へ招かれる為、その間に旅の汚れを落としたりして身だしなみを整えるものだ。


「アリア様。サルタマレンダ伯爵からお返事です」

「日時が決まったの?」

「はい。ただその、明日の朝日と共に、領主館へ来るように、と……」

「無理に決まってるじゃないの何を言っているのよ」


 まぁ今回はそうならないだろうな、と意見を一致させていたノーンズとイアリアは、待機と言いつつ冒険者ギルド併設の宿にそれぞれ部屋を取って、濡らした布で体を拭うぐらいはしているのだが。

 そして実際返って来た指定がそれだったので、思わずイアリアも即答しようという物だ。なお現在は、太陽はとっくに国境の山脈の向こうに沈み、空の一部がわずかに明るい程度の時間である。

 しかも朝日と共に、という事は、日が昇る前に準備を完了して日の出とともに到着しなければならない。そして領主館はヒルハイアスの西の端にあり、イアリアとノーンズが今いる冒険者ギルドヒルハイアス支部は東に近い位置にある。


「こっちは旅で疲れているっていうのに、一睡もせずに移動して準備して顔出せって言うの? いくら貴族であっても失礼が過ぎるんじゃないかしら」

「まぁ……現在その内容を聞いたギルドの交渉員が、明日の夕刻か明後日の朝にならないかと交渉しています」

「それでも十分早い筈なのだけど。だって貴族様の前に出られるような服なんて持ってないもの。まさかこの格好で行く訳に行かないんでしょう? ……それでなくても私は工夫しなきゃいけないっていうのに」


 まぁそう言う事だ。なおイアリアは、最後の一文を呟くようにいいつつ、そっと下ろしたままのフードの端をつまんだ。イアリアもとい「冒険者アリア」は顔に酷い火傷跡がある。これは割と知られた話だった。

 知られた話というか、イアリア自身がそうなるように話を持って行ったのだが。当然だが、サルタマレンダ伯爵令嬢に、顔に火傷跡がある令嬢はいない。そもそも、顔に傷があるという時点で令嬢としては文字通りの傷モノだ。

 とはいえ、イアリアの即答に対して答えを濁した時点で、話を持ってきたギルド職員を含む冒険者ギルドも同じように思っている。でなければ、イアリア(とノーンズ)に話が伝わった時点で、既に交渉員が動いている、という話にはならない。


「現在、衣装については冒険者ギルドの方で用意していますし、アリア様の分は顔を隠せるものを準備しています。流石に貴族の前で帽子、という訳にはいかないので、顔布になるかと思いますが」

「それだけでも助かるわ。仮面だと蒸れて膿んじゃうのよ。かといって、化粧をすると染みてのたうち回る事になるし」

「冒険者には傷をお持ちの方が多いですので、その辺りは対策したものとなります」


 ちなみにイアリアの顔に火傷跡は無いが、腕にはしっかりと火傷跡がある。だから蒸れると膿むし化粧は染みる、というのは実体験だ。なので、その声にはしっかり実感がこもっていた。

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