第3話 宝石の目的地
さて、話をしながらノーンズとイアリアが歩いていたのは、ここエルリスト王国西部を更に西に進む道だ。冒険者ギルド百年遺跡支部を出発点として途中の村に泊めて貰ったり野宿をしたりして5日程進んだ道の先にあるのは、エルリスト王国西側の国境である。
正確に言えば、国境に接し国境を守るサルタマレンダ伯爵領、その要となる領都である、ヒルハイアスだ。エルリスト王国でも随一の防御力を誇る防壁に囲まれ、西にそびえる山脈の唯一通れる隙間であり道を塞ぐ形で存在し、隣国パイオネッテ帝国からの侵入を防いでいる。
十分な国土も肥沃な大地も持っている筈なのに、周辺国へ伸ばす手を止める気配のないパイオネッテ帝国。そこと接している国境なのだから小競り合いは常に起きているし、お互いの国の人間が少しでも情報を得ようと日々殺伐としているという話だ。
「ところで今更だけど、大丈夫かい?」
「本当に今更ね。……手放しで大丈夫とは言えないけれど、まぁ、小細工はしてきたわ。それに魔道具の所持者は、入る時に言えば札を貰えるのは一緒じゃないかしら」
「あぁ、ディラージには行ったって言ってたな。たぶん同じだよ。流石にもう少し条件が厳しいと思うけど、冒険者カードをケースから出して見せれば問題ないだろうし」
そしてそんな状態であるから、当然ながら出入りする人間は厳しくチェックされる。何より、イアリアが逃げ続けていた名目上の実家に戻る事が目的なのだ。イアリアの本名も魔石生みに変わった事も(逃がさない為に)聞かされたノーンズは、行き先が危険地帯だと理解している。
それでも断るわけにはいかないのが貴族という地位であり、呼び出し状というものだ。当然イアリアがただの平民の「冒険者アリア」だと見せているからなのだが、本来の身分を知られようものなら、そのまま出てこれなくなるだろう。
というか。
「あの自称お父様、外面だけは良いものね。家族でも身内でもなく伯爵家だし、養子の私に至っては商品扱いだった辺り、本当に心底愛しているのはお金とこの国なんでしょうけど」
「うーん……まぁ、僕に対する態度も、「国に貢献する冒険者」としてのものならまぁ納得できなくはないけど……」
「イエンスも「良い人」だと言っていたわよ。あの状態だけれどね」
「それが一番不安なんだよなぁ」
イアリアとしては宝石生みだとバレなくても、「冒険者アリア」がイアリアだとバレた時点で自由は無くなると見ている。何ならそのまま監禁されどこかの貴族の嫁として売られかねない。
何1つ自由にさせてくれない上に、顔を合わせれば教育の進捗を聞くか自分にかかった費用をいちいち細かく上げ連ねるだけの人物。それがイアリアから見たサルタマレンダ伯爵……アメアルド・アルベルト・サルタマレンダという貴族だった。
もちろん本人も魔法使いであり、その適性は火属性と風属性に振り切れている。魔力量も十分に多く、1人で炎の嵐を起こして千人に迫る敵兵を蹂躙したという逸話が有名だ。
「恐ろしいなぁ」
「効かない癖に何を言っているのよ」
「僕が無効化できるのは魔法そのものだけ。しかも自分だけ。周りの仲間は助からないし、今の話なら、炎で熱された空気を吸えば肺が焼けて死ぬ」
「あぁ、一応人間ではあるのね」
「そうだよ?」
ともかく。貴族として、そして魔法使いとしてならこれほど優秀な存在もいない。だが同時に父親として人間としてはかなり最低に近い論外。それがイアリアの認識だった。
だからこそ、自分が魔石生みになったと理解した瞬間に選んだ手段が逃亡だったのだ。絶対にあの自称お父様なら、魔石生みになった自分を躊躇なく国に差し出すと判断して。
「ま、元々男爵家に引き取られた時点で貴族は嫌いだったし、冒険者として自由に自分の為だけに生きられるなら、そっちの方がいいとも思ったのよ」
「魔法使いっていうのも大変だなぁ」
「強制的に軍属になるんだもの。大変よ」
「それもそうか」
なお現在移動している目的は、そのサルタマレンダ伯爵に会いに行く事である。もちろん向こうから呼び出し状を出している以上、会ってそれで終わりという事にはならない。
少なくとも呼び出し状によれば、イエンスの婚約発表パーティには参加しなければならない。既に前提からしておかしな、貴族が開くパーティ。そこに、実力と将来がある冒険者として参加する。
絶対に碌な事が起こらないどころか、イエンスとノーンズ、そしてイアリアに手を出している黒幕の罠である事は既に分かり切っている。その中に。
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