宝石と城塞都市

第1話 宝石は旅を続ける

 この世界には、魔法と言う不思議と、その源となる魔力と言う力がある。

 いつ滅んだか定かでない遺跡ですら利用していた痕跡があるこの魔力と言うものは、命の有る無しに関わらず、あらゆるものを変質させる事がある。

 そしてその内の1つに、生まれつき魔力を宿して生まれ、魔法と言う不思議を扱える人間、というものがあった。



 その魔力を宿して魔法を使う人間、というのは、大きく2つに分かれていた。

 1つは魔法使い。宿して生まれてきた魔力の分だけ、世界を自分の意思で上書きする事が出来る人間。

 そしてもう1つは、魔石生み。その魔力は石の形を取って固まる為、そのままの状態で世界を上書きする事は出来ない。



 そしてその石の形に固まった魔力――魔石を使えば魔力の有無に関わらず誰でも、魔石がある限りいくらでも、魔石に込められた魔力の分だけ世界を上書き出来る。

 よって、魔法使いは国の武器あるいは盾として召し上げられることが多く、魔石生みは人間どころか生き物ですらない「資源」として扱われる事がほとんどだった。



 両者の魔力に、これといった違いは無い。魔石という資源を安定的に確保する為、多くの人間や国が長い時間研究しているが、その性質の違いは不明なままだ。

 今のところ分かっているのは、魔石生みの魔力は例外なく魔石へと変じる為、世界を上書きすることは出来ない事。及び、保持する魔力の多寡に関わらず、魔石生みが魔法使いになる事は無い事。



 及び。

 極稀にだが……魔法使いが魔石生みに、変じる事だ。




 そんな世界における国の1つ、エルリスト王国。南は海に面し、それ以外を国境を兼ねた険しい山脈で囲まれた平地という地形になっているこの国の西部を、連れ立って歩く2人組がいた。

 1人は黒髪茶眼の若い男であり、その背中に槍を背負っている。皮鎧を身に着けてそれなりに大きな荷物を背負ったその姿は、実力のある旅慣れた冒険者のものだ。

 彼の名はノーンズ。クラン『シルバーセイヴ』のリーダーを務める、ランクレアの冒険者だ。その本来の髪の色が輝く銀、創世の女神のものと同じ色だという事は、ほんの数人しか知らない秘密である。



 もう1人は、雨の日用の分厚いマントに身を包み、フードをしっかり下ろした非常に怪しい人物だった。声は若い女性のものであるその人物は、アリアという名前で冒険者となった魔薬師である。冒険者登録をして1年と少しで、冒険者にとっての勲章である冒険者カードに付与される宝石を5つも手にした、実質ハイレアランクとして扱われるコモンレアランクの冒険者だ。

 その本名は、イアリア・テレーザ・サルタマレンダ。登録した年より2つ上の18歳であり、本来であれば伯爵令嬢である筈の農村出身な元平民。濃い焦げ茶色のくせっ毛をフードに押し込め、大きく美しい翠の目をフードの影の下に隠した彼女は、魔石生みへと変じた元魔法使いだった。

 ついでにいえば魔石生みに変わったその日に魔法使いを育成する為の学園から逃亡、そのまま国を半分回ったり何だりと紆余曲折あった末に旅を続けることになったが、本来ならとうに魔法使いとしての個人に合わせた指導者、学園のシステムとなった昔からの慣習における師匠に保護されている筈の人物でもある。


「はー、なるほど。それにしても「永久とわの魔女」でも違いが分からないとは、厄介な気配しかしないな」

「全くよね」


 なお事ここに至るまでに、ノーンズとイアリアはお互いの秘密を共有し、協力関係となっていた。ノーンズは双子の兄であるイエンス……こちらは黄金の目を持っている……が利用されている可能性が高く、その利用する何者かから助ける為に。

 そしてイアリアは、そのイエンス(及びノーンズ)を狙う何者かに同じく狙われていて、師匠である「永久とわの魔女」……長らく世界最強の魔法使いの座を欲しいままにするナディネの保護下に戻るまで、その銀の髪の能力である、神の力及び魔力の影響に対する絶対防御、で自らを守ってもらう為に。

 ノーンズからすれば、イアリアを守れば世界単位で最強である個人の助力を得られる。乗らない手は無い。またイアリアも、相手が精神と思考に干渉する能力を持つ事を確信している以上、それが絶対に通じない「確定白」の上に戦闘力があって頭の回転も速い人物がいるのは心強い。


「それにしても、1つはっきりして良かったよ。魔力も神の力も、つまりは同じものだった訳だ」

「そうね。そしてそれが創世の女神に由来するのだから、女神の色を持つ以上通じないのは当然の話じゃないかしら」


 ……若干その旅路で交わされる会話に、主に「永久とわの魔女」ことナディネ由来のとんでも情報が含まれていたりしたが。

 内容の情報爆弾っぷりを別にすれば、協力関係は非常に良いものだと言えるだろう。

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