第21話 宝石は話を終える

 イアリア・テレンザ・サルタマレンダ伯爵令嬢が「冒険者アリア」の正体であり、元魔法使いの現魔石生みであり、「永久とわの魔女」の弟子の1人で現在その問題を解決するためにかの世界最高の魔法使いが動いている、というところまで、イアリアは一気に情報を叩きつけた。

 そこまでされればノーンズだって気付く。確かに踏み込んだのは自分だし、逃がさないようにしたのは自分だ。だがその実逃げられないように捕まえられたのは、自分の方である、と。


「……本物の貴族様とは思わなかったなぁ……」

「逃亡中だから、下手をすれば犯罪者よ」

「さらに情報を積み上げるのは止めようか?」


 大変頭が痛そうにしているノーンズだが、この情報の全てが重荷という訳では無い。むしろ「敵」が共通であり、その対処に「永久とわの魔女」が動いている、というのは、朗報だ。

 何せ、個人戦力という意味で見ればこれ以上の人材はいないし、その知識の幅と深みに関しても並ぶ者はいない。国の1つぐらいは数日とかからず滅ぼす事も出来るのだから、何が隠し玉であろうとどうとでも出来るだろう。

 だから、総合するとイアリアによって味方に引きずり込まれる事は、プラスだったと言える。何せ敵は共通で、イアリアにはこれ以上なく頼もしい味方がいるのだから、手を組まない理由が無い。


「あぁ、なるほど。だからこう、ずっと、身を潜めて目立たないように、それでいてあまり動かないようにしていたって事か。なるほどね」

「そう言う事よ。転移を2度挟んでいるとはいえ、師匠が私の居場所を探し当てられない筈がないもの」

「すごい自信だな……。まぁあの「魔女」ならそれぐらいはやりそうだけど。去年の秋あたりに、湖を1つ埋めたって噂も聞いたし」


 ……正しくは、鉱山内部の地底湖を溶岩で満たした、だけれど。と、イアリアは訂正を頭に浮かべたが、口に出すことはしなかった。大体の場合噂というのは事実よりも大げさになるのだが、あの師匠もといナディネに関しては逆である事が多い。


「けど、そういう事ならあれか。僕はこれから、君を守る方向で動けばいいのかな」

「裏切らなければ別行動してもらいたいのだけど」

「いやまぁそれはそうなんだろうけど……というか、裏切らないよ。裏切ったらそれこそ「永久とわの魔女」が敵に回るじゃないか。命がいくつあっても足りない」

「でしょうね。でも、あなたと一緒にいる事で目立つのもかなり良くないわ」

「あぁ……そこが裏目に出るかぁ」


 もちろんイアリアも、ここまで聞いたノーンズが裏切るとは思っていない。利用される可能性も低いだろう。何故なら今までの事、冒険者ギルドへの違和感と双子の行方を捜し続けていた事から考えれば、「銀の髪」というのは、そういう干渉に対する防御か、無効化する能力である可能性が高いからだ。

 だからイアリアとしては、味方である事が確定し、自分の行動を妨害されなければそれでいい。そして残念ながらというべきか、ノーンズが持つクラン『シルバーセイヴ』リーダーという立場は、イアリアにとって妨害になるものだった。

 何故なら、目立つし不自然だからだ。どんな理由を付けようと、とりあえず見た目「冒険者アリア」は、凄腕の魔薬師という特徴こそあれ、普通一般の、コモンレアランクの冒険者なのだから。


「まぁ、この会話ぐらいなら、僕がクランへの誘いをかけて断られたって事にすれば問題ないだろうけど。……けどいいのかい? たぶん僕ならその、魔力暴走に見せかけた転移、完全に防御できるけど?」

「……そういう能力なのね」

「そうそう。色は見せたけど内容は言ってなかったからね。神の力と魔法に対する絶対防御。有用だと思うがどうだろう」

「今の流れで一緒にいると言えば、私がクランへの誘いを受けたって事になるじゃない。……あなた、師匠から弟子を引き抜くつもり?」

「分かった。別の言い訳を考えよう」


 ちゃっかり自分の利益を差し込んでくるノーンズだが、それをうっかり受けてしまうイアリアではない。もう見せたが故に何度でも出せるようになった「永久とわの魔女」の弟子、というカードを出せば、ノーンズは意見を引っ込めるしかない。

 しかし、お互いが味方である確約はとれた。少なくともその点では両者満足できる結果となっただろう。そして情報共有が終わり、今後は別行動という方針も決まったところで、話は終わったと言っていい。


「――失礼します。こちら、冒険者ノーンズ様、冒険者アリア様がお使いの部屋でよろしいでしょうか」


 ただ、そのタイミングで。控えめなノックの音と、一瞬で警戒態勢に入ったノーンズが返した応答の声に、そんな問いかけがあったが。

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