第16話 宝石は推測する

 そこからしばらくして、調べものが一段落したらしいところで戻って来たギルド職員に今度こそ依頼の完了手続きをしてもらい、イアリアは宿に戻った。

 流石にその調べものの結果を表情で悟らせるような事は無かったが、それでもイアリアの方の手続きが終わった途端にまた奥へ引っ込んでいったので、その結果が良いものでは無かったのだろうという推測ぐらいは出来る。

 最終的な調査結果がイアリアに開示されるのかというのは疑問というか、まず開示されないだろうなというのはともかく。


「……笑えないわね。最悪、冒険者ギルドも信用できないなんて」


 冒険者ギルドさえも欺かれたか……冒険者ギルドすら干渉を受けているか、という事が推測できる。イアリアにとっては、これが最悪だった。

 何故ならこんな大失態、普通はあり得ないからだ。少なくともイアリアがここまで立ち寄って来た他の場所の支部でならあり得ない。冒険者ギルドが、冒険者の行方について把握していない、等という事は。

 もちろん遺跡調査に行って戻ってこないとか、行き先も告げずに辺境へ旅立ったとかなら別だ。それなら音沙汰が無くても問題ないし把握しろという方が無理だ。だが。


「少なくとも、ハイノ村で初めて会った時点では、普通に依頼も受けていたし。その前から冒険者ギルドに顔を出していた風だったのだし」


 部屋に戻ってから落ち着いてイエンスについて思い出し直したイアリア。グゼフィン村に移動して以降は冒険者ギルド内でイエンスの姿を見る事は、外に出る冒険者と魔薬を作る魔薬師という差異から無かったが、それでもハイノ村での様子を見る限り、長期間行方不明になっていたとは思えない。

 もちろんイアリアにも素早く対応していたし、あの時のハイノ村の事を考えれば、思っているより滞在時間は短かったのかもしれないが、それでもイアリアと大差ないという事はない筈だ。お人好しなのを含めても、多少は村に滞在して村人に愛着がわいていなければ、あんな小芝居はしないだろう。

 なおかつ、あんな小さな村だ。少なくとも冬の間は山賊の脅威に怯えていたのだろうし、その間何の依頼も受けていないという事はないだろう。つまり、冒険者として活動していた、という事になる。


「だから、例のノーンズとかいう人が探しているなら、探せば見つかる位置に居た筈なのよ。どう考えても」


 にもかかわらず、ほぼ無関係と言えるイアリアへの、あの採算の面会要求だ。もっと確実な情報源はしっかりあった筈で、それを手に入れられない地位でもなければ信用が足りない訳でもない。

 だが、これを冒険者ギルドの不手際とするのもおかしい。本当に不手際だとすれば、大問題である。だからこそイアリアは、正体不明の存在の干渉を疑った。


「……」


 のだが。


「あら……? いえ、まさか、もしかして、行方不明の方ではない、可能性もあるのかしら……?」


 ここでイアリア、少し冷えた頭で、別の可能性に気付いた。

 何のことかと言えば、イエンスとノーンズは、それぞれ創世の女神の色彩である、金の目と銀の髪を持っていることが(ほぼ)確定している。そしてそれは特殊な力を有していて、少なくともイエンスはそれを秘密にしていた。

 そしてイアリアは、魔力暴走による転移で、唯一イエンスと共に転移させられている。正直イアリアからすれば、イアリアを狙った転移にイエンスが巻き込まれたとしか解釈の仕様がないのだが。


「外から見たら、逆の可能性がある……? いえ、それどころか、私が犯人だと疑われている可能性まで……?」


 推定ノーンズからすれば、イエンスにこそ転移させられる心当たりがあり、イアリアはそれに巻き込まれた立場だろう。だがあの時あの場で、イアリアだけが巻き込まれた理由が分からない。

 ではその巻き込まれる理由として心当たりがあるのは何かといえば。


「嘘でしょう、まさか最悪、あの婚約者騒ぎがここまで尾を引いてるって言うの!?」


 まぁ、特別なイエンスと、特別な関係にある間だから……という可能性が上がるのは、妥当なところなのではないだろうか。

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