第15話 宝石は疑問を呈する

 ノーンズとの面会を断ったイアリア。冒険者ギルドも特に何も言う事はなく、イアリアは師匠を待つだけののんびりな日々に戻った。


「アリアさん、ノーンズさんから会いたいという話が来てます」

「アリア様。面会の打診が来てますね。ノーンズって人なんですけど」

「この後お時間あります? 面会のお願いが……え? あ、はい。ノーンズさんです」


 筈だったのだが。

 思わずイアリアも「暇なの?」と零してしまうほど、毎日毎日ノーンズはイアリアに面会を申し出てきていた。直接来ないのは、どうやらノーンズはクランの拠点からあまり動けないらしい。そしてその拠点は、ここ冒険者ギルド百年遺跡支部から離れた場所にあるようだ。

 もっと言えばサルタマレンダ伯爵領の領都、エルリスト王国西端に位置する国内有数の城塞都市にあるのだそうで、イアリアは絶対に近寄りたくない場所である。


「私の知っている事は全部冒険者ギルドに話したのだけど、それは伝わっているのよね?」

「その筈ですね。その事は冒険者ギルドからも伝えられている筈なのですが」


 5日も続けばイアリアもいい加減うんざりする。なので魔薬の納品を終えてまたその言葉が出た時に再び確認を取ったのだが、返ってくるのは同じ答えだ。つまり、冒険者ギルドにも分からないという事だろう。

 まさかそのノーンズというのも、元凶に影響を受けてないでしょうね? とイアリアが黒幕への警戒度を上げたところで、後ろで書類仕事をしていた、別のギルド職員が話に入って来た。


「まぁ気持ちは分からなくもないですけどねー。確かここ何年も行方が分かってなかったんでしょう? 私妹がいるんですけど、あの子がいなくなって数年も行方不明だったら、どんな手掛かりだってほしいって思いますよー」

「あなたね。だからと言って、これは流石にご迷惑よ」


 どうやらそれはノーンズを知り、どちらかというとそちらの肩を持つギルド職員だったようだ。イアリアと話をしていたギルド職員に窘められたが、イアリアが気になったのはそこではない。


「待って、数年? 行方不明になってから?」

「え、はい。そのようですよ」

「……イエンスって、冒険者だったわよね?」

「そうと聞いてはいますが……」

「兄弟で冒険者らしいですよー。数年前までは仲良く一緒に活動してたとかで」


 その行方不明とされている期間が、想定外に長かったからだ。


「……。数か月前には間違いなくグゼフィン村に滞在していて、何なら護衛依頼を受けていたのは伝えたのかしら?」

「それも伝えた筈ですが……」

「あれ、待って、捜索依頼と関係ない事だから自信ない。伝えたか確認してきますー」

「えぇ、頼みます」


 何故ならイアリアがイエンスから聞き出した、「嫁もしくは子供を作ってサルタマレンダ領に戻れば貴族になれる」話を持ってこられたのは、出会った時点で約1年前だ。

 その話がノーンズに伝わっていないとしても、イエンスが旅に出たのは1年ちょっと前となる。数年、となると、更にもう少し、どこで何をしていたか不明な空白期間がある、という事になるだろう。

 なおかつ、イエンスも間違いなく冒険者だった。それもちゃんと実績を重ねた、護衛依頼を受けられる程度には実力が認められた冒険者だ。仲良く一緒に活動していた、という事は恐らく、同じクランに所属していたのだろうし。


「というか……冒険者なのに、冒険者ギルドがその行方を把握していなかった、何てことが有り得るの?」

「……。支部同士のやり取りで、一般的な冒険者の動向まで共有する事はまずありませんが」

「でも、たまたま一緒に行方不明になっただけの私にこの勢いで聞いてくるって事は、相当前からかなり必死に探していたんじゃない?」

「そう、ですね……? すみませんアリア様、少し席を外します」

「気にしないで」


 そこまで考えて出てきた疑問は、冒険者ギルドのギルド職員にとっても違和感を覚えるものだったらしい。続いて、カウンターの向こうにいたギルド職員も奥へと姿を消した。

 魔薬の納品依頼に関する書類手続きは終わっていない。何故ならその途中だったので。……せめてそこを終わらせてから調べものに取り掛かってくれれば、私は帰れたのだけど。とイアリアは思った。

 が……まぁ、この話の行方に、興味が無いと言えば嘘になる。この妙な違和感からして、何かの干渉が無いとも言いきれない。


「……相手の情報は、多ければ多いほどいいもの」


 で、実際何がこんな形での干渉をしてきたのかと言われれば。

 それは、イアリアにちょっかいを出している相手である可能性は、まぁまぁある、と言えるだろう。

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