第14話 宝石は尋ねられる

 思っていなかった方向から思っていなかった……或いはあえて意識から排除していた爆弾を持ってこられたイアリアだが、その生活そのものは大変平穏だった。

 何せ毎日昼前に起きても何も問題ないし、1日に傷を癒す魔薬を50本ほど納品すればギルド職員から感謝されるしお金も手に入る。余った時間はごろごろしてもよし、魔薬の研究をしてもよし、付近に採取に出てもよしだ。

 狂魔草の無毒化に保存食を使ってしまった上に、グゼフィン村では籠城戦をする都合上、採取に出る事が出来なかった。その分だけまぁまぁ手持ちの保存食や素材、魔薬の類は減っていたのだが、それを補充出来た形となる。


「本日もありがとうございます、アリア様。……ところで、アリア様に会いたいという方がいるのですが」

「誰かしら?」

「それが、クラン「シルバーセイヴ」の代表者であり、レアランクの冒険者である、ノーンズという方なのですが」

「知り合いではないわね。にしても、何の用かしら」


 一応、冒険者ギルドからの実質的な扱いはイアリアの方が上とはいえ、一応対外的には格上の冒険者、それもクランの代表者を相手にする態度ではないのだが、特にギルド職員も何か言う事はなかった。

 どころか、知り合いではない、と聞いたところで小さく頷いている。が。


「イエンスという冒険者の関係者という事で、同時に行方不明になったアリア様に話を聞きたい、との事です」

「…………。そう言えばいたわね。あら? という事は、まだ見つかってないの?」

「そうですね。発見されたのはアリア様だけです」


 それに続いた言葉に、そこそこ考える間を開けたイアリア。ギリギリ忘れていなかった、というのは、割と素だ。むしろ自分を探す依頼の為の本人確認の時に、一応名前が出ていたから完全に忘れずに済んだとも言う。

 ……普通なら例の金の目の事もあり、忘れられる訳が無いのだが。むしろあの金の目が厄介すぎるために、早々に忘れる方へ向くのがイアリアである。


「だけど、私が知っている事は全て話したわよ? クランの代表者でレアランク冒険者、その上行方不明者の関係者なら、それぐらいの情報は手に入れられるでしょう?」

「そうなのですが、どうやら双子だったらしく。どんなに細かい情報でも取りこぼしたくない、と」

「ふたご」


 と、聞いて、更に間を開けて思い出しにかかるイアリア。……なるほど、そんな話を聞いた覚えがしなくもない。

 が。ここでイアリアはちゃんと思い出していた。イエンスから聞き出した話を。そう、双子の弟がいるという事と……その弟は、銀色の髪を持っている、という事を。

 そして金の目と同様、銀の髪というのは、女神の色彩である。そちらの能力については聞いていないが、何も能力が無いという事はないだろう。


「……グゼフィン村で、ちょっと迷惑をかけられたのよね。その場に居合わせただけで婚約者扱いされかけたのだけど、そんな事実は一切ないのよ」

「それはまた」

「だから、その家族とは、出来れば会いたくないわね。だって本当に何も無いんだもの。断片でも話が伝わっていたらややこしい事になりかねないわ」

「分かりました。その辺りは伏せつつお断りしておきます」


 流石にイアリアでも、存在そのものが伝説になっているような「銀の髪」の有する特殊な力が何か、までは把握していない。だがしかし、実際にイエンスが金の目をしていて、魔力量を見抜いた事は思い出した。

 という事は、まず間違いなくその、双子の兄弟であるノーンズという人物は、金の目相応の特殊な力を有しているだろう。自身が代表者を務めるクランの名前に「シルバー」と入っているぐらいだから、隠しているかどうかは分からないが。

 もちろん、何も他意は無い可能性はある。魔力暴走からの転移に巻き込まれたイエンスを探す為に、どんな情報でもいいから求めているただの家族である可能性もある。


「(独力でレアランクまで成り上った冒険者なのだから、腹に何を抱えていてもおかしくないでしょうし)」


 のだが。

 ここで、まぁ大丈夫だろう、等と思う楽観を、イアリアは持ち合わせていなかった。

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