第13話 宝石は思い悩む

 ちなみにそこからイアリアが自分で頑張って調べたところ、どうやら冒険者カードに埋め込まれる宝石は、冒険者カードに記載されているランクを2個につき1つ上げる扱いとなるようだ。

 今のイアリアこと「冒険者アリア」の冒険者ランクはコモンレア。1人前の冒険者であり、一番人数が多いところである。1つ上がレア、更に上がハイレアとなり、その上はレジェンドと言って英雄と呼ばれる冒険者に与えられる特殊なランクだ。

 つまり。宝石が5個になった現在、「冒険者アリア」の冒険者ランクは実質ハイレアとして扱われる。通常の冒険者の枠の中ではほんの一握り、上澄みと呼ばれる位置だ。


「…………どうしてこうなったのかしら」


 なお「実質」であり、表面的には冒険者カードのランクであるコモンレアとして扱われる。扱うのは冒険者ギルドという組織からであって、そこに所属している冒険者や、依頼を持ってくる誰かからその扱いは分からない。その本人が、宝石持ちである事を強くアピールすれば別だが。

 もちろん宝石の数によって実質的な冒険者ランクが変わるのはよく知られている為、その辺を考えての事だ。実際イアリアも、目立ちたくないから冒険者ランクをコモンレアから上げていないのだし。

 それに流石に最上位となるレジェンドランクとなると基準が厳しく、宝石を集めただけでは辿り着けない。なので、現在の状態が一般的な冒険者が辿り着ける、ある種の頂点だという事になるだろう。


「いや別に冒険者として成り上がりたかったとか、そういう事は一切ないのだけど? まぁ確かに冒険者ギルドにとって重要な存在になれば、保護してくれるんじゃないか、とかは思ってたわよ? 思っていたけれど、だからといってここまでするつもりじゃなかったのだけど……?」


 大変リズミカルに癒草を刻みながら独り言が止まらないイアリアだが、やってしまったものは仕方ない。それに実質とはいえハイレアランクとして扱われるのなら、少なくとも冒険者ギルドは全力でイアリアを守ろうとするだろう。

 もちろんその相手には貴族も含まれるし、何なら国が相手でも相応に立ち回ってくれる。本当にどうしてもダメそうなら、最終手段として国外逃亡も選択肢に上がるだろう。

 それに、イアリアの実力は本物だ。魔薬師としての腕前も当然ながら、エデュアジーニ村とグゼフィン村の防衛に際し、遠距離攻撃や戦略的な戦闘力も持っている事が証明されている。はっきり言って、国であっても貴族の位を用意して迎え入れるレベルだ。


「いえまぁ、流石にここまでくれば、正直私の正体がバレたところで守ってもらえるでしょうけど……おかしいわね。もうちょっと静かに、大人しく、地味に動くつもりだったのだけど」


 刻んだ癒草をざらーっと鍋に入れて砂時計を引っ繰り返しつつ、イアリアは首を傾げる。冒険者ギルドの2階にある作業スペースを借りているし、後ろの扉は閉めているのでその動きは誰にも見えない。

 とはいえ、イアリアに後悔はない。何せ動いていなければ、どれだけ被害が出ていたのか分からないからだ。そしてその結果として当初の目的、冒険者ギルドに保護してもらう立場になる、という部分は達成できているのだから、事実を見るなら問題はない。

 まぁそれはそれとして、どうしてこうなった、と思う部分は止められないのだが。本当に。なぜこうも出先で巻き込まれるのか、とも思っているイアリア。


「……半分以上あの草の気がしなくもないけれど」


 あの草こと狂魔草を思い浮かべるイアリア。ただし。


「それにしても、やっぱり妙よね。一応は根絶された筈の草が、どうしてあんなに……いえまぁ1株でも見逃せばあっという間に増えるのは体感したけれど、それでも最初の1株はあったって事になるのだし」


 それはそれとして。狂魔草が見つかった。それも田舎と呼ばれる地方で。

 それに対する違和感は、ちゃんと忘れず抱えていたのだが。

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