第12話 宝石は受け取る
自分に対する捜索依頼が出ていた事に対する背景を知った後、イアリアはそのまま冒険者ギルド百年遺跡支部に留まり、そこで主に魔薬の納品依頼を受けて過ごしていた。もちろん既に自分が通って来た遺跡内の地図と、遺跡の外に広がっていた地下洞窟の地図は冒険者ギルドに売っている。
どうやら遺跡の通路とほぼ同じ幅と高さの洞窟が広がっているというのは冒険者ギルドでも初めての情報だったらしく、かなり良いお値段が付いた。この百年遺跡支部における常設依頼、「百年遺跡」内部の構造調査を行ったものとして、実績と報酬が追加されたのも嬉しい情報だ。
もちろんその地図が正しいかどうかの調査は行われたのだが、問題なく進む事が出来たらしい。そしてちゃんと洞窟も見つかって、今はイアリアが行かなかった場所の調査が行われている筈だ。
「(ま、それでもあの、やたらとあった下向きの階段はどこにもなかったようだけれど)」
イアリアは地図を冒険者ギルドに渡す際、一切階段についての話をしなかった。地図上も、階段の場所を書き込んだものは出さず、階段なしのものを新たに書いてそちらを出している。
そして実際階段はどこにもないまま、調査に向かった冒険者達は洞窟に辿り着いたらしいので、階段なしの状態で出して正解だったのだろう。あまりにも不自然だったから警戒したイアリアだったが、懸念は当たっていたようだ。
まぁちゃんと(?)階段なしの地図を出して、地形というか通路の形と部屋の位置は正しかったようなので、何も問題はない。なおかつ冒険者ギルドがより注意を向けたのはあの地下洞窟であり、その行き止まりを探しているようだ。
「……まぁ、そうよね。いつまで経っても全貌が分からない広大な遺跡。それがもし「今も拡大を続けている」のであれば、由々しき事態でしょうし」
何故ならイアリアもちょっと思ったのと同じく、冒険者ギルド及び「百年遺跡」に詳しい(と自称するのも含む)冒険者は、「百年遺跡」が今もなおその規模を拡大させている、という可能性に思い至ったからだ。
あの地下洞窟が「加工前の遺跡」であるとするなら、その行き止まりには地下を掘り進め続けている「何か」がある可能性が高い。あれだけ頑丈な岩盤を一定の大きさで掘り進め続けられるものだ。その価値は色々な意味で計り知れないだろう。
そして価値が高いという事は、一獲千金のチャンスでもあるという事だ。つまり、冒険者の夢の1つである。
「だから冒険者の数が少ないのはいいのだけれど」
「はい」
もちろんイアリアはそちらには参加せず、しかし地下洞窟は「百年遺跡」と違って野生動物がいたりする為にそこまで安全ではない。という事で、需要の増えた魔薬の納品依頼をこなして、百年遺跡支部に併設されている冒険者ギルド運営の宿に泊まっていたのだが。
いつも通りに納品依頼の達成報告をしたイアリアだったが、そこで冒険者カードを預けた際に、冒険者ギルドのギルド職員から冒険者が少ない事と、傷を癒す魔薬の需要が上がっている理由についての話題が振られたのだ。
いつもと違う話題に若干首を傾げたものの、大人しくその話を聞いていたイアリア。話の分だけ処理が遅くなった冒険者カードを受け取って、ちょっと固まった。
「……私の冒険者カード。何か、増えているのは、何故?」
「はい。エデュアジーニ支部から連絡が届いたのと、グゼフィン村支部から依頼報告の折り返しで届いた分ですね」
何のことかと言えば……イアリアもとい「冒険者アリア」の冒険者カード。その隅に輝く宝石が、5個に増えていたのだ。
冒険者ギルドの支部、その支部長の判断で与えられる勲章のようなもの。大変得難い筈のそれは1つ持っているだけで一目置かれると言われているし、実際イアリアはここまででその威をある程度借りてきた。
しかし、誰もここまで並べろとは言っていない。当たり前である。
「確かエデュアジーニではスタンピードの対処に加え、原因となった狂魔草を食べてしまった村人の治療に大変貢献されたとか」
「……」
「グゼフィン村では、村の中に仕掛けられた火薬の早期発見のきっかけを作り、火薬を括りつけられたウルフの同時多発突入を実質1人で見事に阻止してみせたとか」
「……」
言っていない、のだが。冒険者ギルドの支部を任されるだけあって、支部長となった人間はイアリアを……「冒険者アリア」を逃がすつもりは、さらさら無いようだ。
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