第11話 宝石は辿り着く

 しっかりと自分に「小細工」を施し、イアリアは「百年遺跡」の中を再び進み始めた。もちろん地図を作りながら、同じ方向へだ。かなり時間がかかったとはいえ、階段の変化があったという事は、方針は間違っていなかったという事だからだ。

 実際そこから数日の間、階段に遭遇する事は無かった。それだけでもだいぶ気が楽に感じるイアリアだが、油断はしないように、しっかり休みながら進み続ける。

 そして。


「待て! そこにいるのは誰だ!?」

「冒険者よ。そちらこそ、名乗るぐらいはしていいんじゃない?」

「……冒険者カードを見せろ!」

「分かったわ。だからその間に攻撃しないでよね」


 ようやく、他の人というか、冒険者らしい武装した人間に遭遇した。その第一声がこれだったのは、まぁ、遺跡という場所を探索している状況と考えれば非常に妥当だ。

 それに攻撃するなと言っている間は大人しく待っていたし、実際ケースに入ったままの冒険者カードを見せると警戒を解いたので、非常に友好的な冒険者だったと言えるだろう。

 なおかつ。


「あんた、アリアさんか!?」

「そうだけどというか、冒険者カードを見たでしょう?」

「あ、あぁ、見たから言ってるんだが、捜索依頼が出てるぞ」

「……。誰から?」

「冒険者ギルドからだよ。グゼフィン村支部だったか。支部が半壊した魔力暴走に巻き込まれて転移した可能性が高いっつって」

「あぁ、間違いないわね。とはいえ転移した場所からだいぶ歩いたけれど」


 少なくともイアリアにとって、大変ありがたい情報を持っていた。探してくれていたのね、とイアリアは口の中で呟く。

 冒険者及び冒険者ギルドは「自由」のみを自らの上に置く。すなわち原則的に何が起こっても自己責任であり、冒険者ギルドから冒険者に干渉する事はほぼ無い。

 なのだが。イアリアは今初めて聞いたものの、あのグゼフィン村にあった、村名詐欺である田舎都市の支部が半壊し、それに巻き込まれたとかいう事情があれば別なようだ。……もちろん、かかわりがある人間として話を聴く必要がある、という事情もあるのだろうが。


「で、まぁ。捜索依頼が出てて、達成型だからだな……」

「私がついていけば報酬になるんでしょう? いいわよ。乱暴されなければね」

「しないしない!!」


 という訳で、その冒険者たちと一緒に移動する事しばらく。思った以上に外へ出られる場所は近かったらしく、あっさりとイアリアは地上に出る事が出来た。若干、今までの苦労はなんだったのか、と思ったのはさておくとする。

 外に出てからもしばらく移動して、「百年遺跡」の周囲に点々と設置してある冒険者ギルドの出張所で一泊。この時点で外へ案内してきた冒険者たちは報酬を受け取り、イアリアとは別れた。

 翌日は冒険者ギルドの職員と一緒に移動して、冒険者ギルド百年遺跡支部へ到着。そこで改めてイアリアは、自分の捜索依頼が出た理由と、グゼフィン村支部に何が起こったかを知った。


「魔力暴走で支部が半壊、というより、ほぼ全壊。なおかつその場で行方不明になっていたのが、私とイエンスの2名」


 ここまではいい。と、百年遺跡支部で受けた説明を理解しながらイアリアは呟いたが、問題はその次だ。思わずイアリアも眉間にしわが寄ろうというものである。


「……魔力暴走を起こした当人は、干からびた状態で瓦礫の下から発見。辛うじて生きてはいるものの、動く事も喋る事も出来なくなっている……?」


 不自然だとは思っていた。魔力暴走と言われればそうだと言えるが、魔力暴走に見せかけた何か別のものだと言われてもそうかも知れないと思う。そもそも魔力暴走が起こる直前まで、魔力の欠片も無いただの人間だったのは確かだったのだ。

 もちろん冒険者ギルドがその身柄を確保して、動く事も喋る事も出来ないのに生かしているのは、何か情報が無いか少しでも引き出せないかと思っているからだろう。

 実際どうなのかは分からないし、イアリアが思っている通り「百年遺跡」の構造を条件付きとはいえ変えられる相手だとすれば、何も出てこない可能性が高そうだが、それでも無いよりはましだろう。


「…………」


 ここでイアリアが思い出したのは、書類上の元親となっているマケナリヌス男爵だ。今回の魔力暴走による転移とあの時の転移は、同じものだ、とイアリアは直感で判断した。

 では。

 あのマケナリヌス男爵は現在、どうなっているのか?


「(いえ。あの時、ハリス兄様とジョシア兄様が外に出て、直接相対していたわ。あの2人があんな雑な魔力暴走に巻き込まれるとは思わないし、その後も動いている筈よ)」


 そもそも、あの最初の魔力暴走が起こったのは、ここエルリスト王国において唯一の魔法使いを育成する機関である、ザウスレトス魔法学園である。魔力を持たない男爵が実質不法侵入していたという前提条件を考えると、それはもう徹底的に調べられている筈だ。

 それが冒険者ギルドに開示されるかと言われるとかなり怪しいというか不可能に近いと思うが、少なくとも、兄弟子2人は関わっているだろう。そして兄弟子達には、偽名で冒険者をやっている事は知られている。

 となれば、何とか情報の共有をしようとしてくれるだろう。……故に、今のイアリアに出来る事は、自衛をしながら待つ事となる。

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