第8話 宝石は見つける
状況に気味の悪さを感じつつも探索を進めていたイアリア。途中で別の部屋を見つけてはそちらに拠点を移し、結局他の冒険者に遭遇するどころか気配すらもないままに進む事、「百年遺跡」内の時計で5日後。
「…………流石にちょっとおかしいんじゃないかしら」
探索を続けていたイアリアの前に、ぽっかりと口を開けた穴があった。いや、穴ではない。今いる場所の床から続いてだんだんと高さを減らす段差が続いている。すなわち、階段だった。
ただし、下向きの、だが。イアリアが探しているのは、地上に戻る為の上向きの階段だ。下向きではない。更に地下へ潜るつもりなど、イアリア自身にはこれっぽっちもない。正直「百年遺跡」の探索もどうでもいいと言い切れる。
にもかかわらず、階段は目の前にある。しかも、これが初めてという訳では無かった。どころか。
「これでもう3つ目よ? 2日目で見つかった時点でおかしいのに、昨日と今日で連続じゃないの」
確かに「百年遺跡」は階段が多いのだろう。その広さについてもイアリアはしっかり認識した。足が痛いのを魔薬と慣れないマッサージで何とか誤魔化しつつ毎日歩いただけあって、とても広く、また未だに未知の領域があるのも納得した。
まぁだからこそ、おかしい、の認識になった訳だが。人が1人で探索できる範囲など、たかが知れている。イアリアはそれを知っている。……だというのに、下向きの階段に遭遇するのは3回目だ。探索範囲は大して変わっていないにもかかわらず、である。
こんな頻度で遭遇できるのであれば、何十年も探索が続く事はないだろう。そもそも全体の面積を考えた場合、狭い範囲に集中しすぎだ。どう考えても不自然である。
「というか、こう……露骨なのよね……」
なのでイアリアは階段を無視して探索を続行していた訳だが、この遭遇頻度である。しかも、普通なら階段より先に遭遇する筈の冒険者の気配がちらりともしない。
1度だけなら、まぁ、冒険者がいないところに階段があったんだなで済む。済むが、こうもしつこく階段が出現すれば、どう取り繕ってもおかしいとしか言いようがない。
問題は、そうまでしてイアリアに、地下に進んでほしい何者かの目的なのだが。
「…………」
目的その物についてはさっぱり分からない。が、まぁ、大体碌でもない事だというのは分かる。何しろ理屈は全く分からないが、遺跡の構造をいじるような相手だ。
という事はつまり、魔力を持たない人間に魔力を与え、そして暴走させて、その方向を制御する、何てことも可能だろう。すなわち、イアリアを誘拐した黒幕である可能性が高い。
まぁ実際、そんな事が可能な相手にどれだけ抵抗できるのかというのはまた別の話になる訳だが。
「私は地下に潜りたいのではなくて、地上に出たいのだけれどね。そろそろ太陽の光が浴びたいし、魔薬の研究だって途中だし、こんな地下に引き籠っている余裕はないのだけど」
はぁ、と聞えよがしにため息をついて、イアリアは下向きの階段に背を向けた。内心、これはあの洞窟の穴を拡張して、さっさと外に出ていた方がマシだったなと確信しながら。
「というか、無作法で無礼で最悪で最低なのよ。こちらに予定を聞く声1つかけず、その返事も聞くことなく、強引に他人を思う通りにしようだなんて」
階段から遠ざかる。十分に周囲へ注意の糸を張り巡らせながら。そもそも、そうだった、とイアリアは思い出す。自分はいわゆる「勘が鋭い」方ではない。むしろ真逆だ。そういうのは、上の兄弟子や師匠の持つ能力だった。
にもかかわらず、あの何とも言えない「嫌な予感」は何だったのか。ここまでの不自然を目にして、なおかつ。
「何か望みがあるなら、期間と場所と条件をまず提示して、それを冷静な頭でこちらが理解するのを待って、なおかつ肯定の返事があるのを確認してから、契約書を用意してお互いにサインするべきよね。当然だけれど。もちろん受けるしかないなんて状況や持っていき方は脅迫なのだから、拒否する権利は受ける側にあってしかるべきだし」
3度も遭遇した下向きの階段。それに対して、この先に進んだ方がいい気がする、という……冷静に考えれば不自然極まりない、「謎の思考」が働いている事に、気が付いたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます