第6話 宝石は見つける
そこからイアリアは念の為、兄弟子2人と師匠にのみ分かるように暗号化した魔法的狼煙を上げる魔道具を作り、太陽が見える穴の下に設置しておいた。魔石はかなり大きなものを作っておいたし、割としっかり作ったので、1ヵ月ぐらいは持つだろう。
次いでイアリアはだいぶ減ったロウソクの代わりになる灯りの魔道具と、空気を調べる魔道具を作成。マナの木を多めに採取して蓄えておいて良かった、と、イアリアは過去の自分に感謝した。
最後に残った食糧や魔薬等の残りを確認し、ベルトなどに下げてすぐ使えるようにしている魔薬を、閉所戦闘用のものに入れ替えた。ついでに入れっぱなしだった頬当てを取り出し、刺繍しながら魔石を縫い付ける形で、防毒と防塵の効果を持たせる。
「……急ごしらえだからあれだけど、まぁ、無いよりはマシよね」
そして洞窟探索を本格的に開始し、体内時計で10日後。
「…………」
流石に一度太陽の光を浴びに戻るべきか、とイアリアが思う程度に地下に籠り続けた先で、ようやく再びの光を見つけた。
残念ながら太陽光ではないが、それでも手元の魔道具による灯りとは比べ物にならない。人の気配を探ったがそれらしいものはないというか、生き物の気配自体が全く感じられない。
……それはつまり、何かが潜むには絶好の条件なのだが、それも無いだろうな、と、イアリアは判断した。何故なら。
「そんな気はしたけれど、完全に遺跡よね、これ……それにしても、本当に壁が光っているわ。どうなってるのかしら」
洞窟の先に光を見つけ、念の為に灯りを消して近寄ってみれば、そこにぽっかりと口を開けていたのは壁というより壁材、つまり天井と床もぼんやりと白く光っている、現在の技術では再現できないロストテクノロジーが使われた通路だったからだ。
理由は様々というか今でも不明だし、その種類あるいは時代も様々ながら、とりあえず何度か滅んでいる事だけは確実な文明の遺産。それこそ、そちらに詳しい冒険者であればこの光る通路だけで何文明と呼ばれている時代のものか分かっただろうが、あいにくイアリアはそちら方面には興味が無かった。
だが遺跡というものに関する基礎知識は授業という形である程度得ている。何故なら現代より優れた文明が滅びるだけの何かがあったのは確かであり、その何かに対して耐えたものだけが遺跡として残っているからだ。つまり。
「端まで綺麗って事は、よほど丈夫なのか、あるいはこんな端っこまで点検する何かが生きてるって事よね。環境が良かったっていうのもあるだろうけれど……というか、下手をすればこの洞窟がこの遺跡のせいなんじゃないかしら」
遺跡というのは、丈夫で、未知で、遺跡そのものを守る仕掛けがあるものだ。そしてその守るの中には、侵入者を排除するというものも含まれる。
ただイアリアがこの通路を見つけてから改めて他の場所も探索してみたところ、他はどうにも行き止まりばかりのようだ。もちろん枝分かれの全てを確認できた訳では無いが、決定的なのは、この洞窟の高さと幅が、目の前に口を開けている通路とほぼ同じだという事だろう。
生き残って脱出したのか、それとも通路を点検する延長で掘り進められたのか。真実は分からないが、恐らくこの通路が発端で起点なのはほぼ間違いない。だがイアリアは、サルタマレンダ伯爵領において有名な遺跡を1つ知っていた。
「というか、これ。まさか、アンブル渓谷の南にある「百年遺跡」の一部……?」
それは発見当初は何か別の名前がついていたものの、その複雑さと大きさで探索が難航し、発見から何十年も経った今でも探索が終わらない事から、いつの間にか「百年経っても探索が終わらない」と言われ始め、それがそのまま名前になった遺跡だ。
そのほとんどは光る謎の素材で出来た通路であり、それは迷路のように酷く入り組んでいて、目印の類も残しにくいし通路同士の見分けもつきにくい。ただ時々部屋があって、そこには生きている設備があったり、遺物が残されていたりするようだ。
なので、今も多くの冒険者が探索を続け、一部はこの遺跡内部で生活しているような状態になっている冒険者もいるらしい。そして今のイアリアにとって都合の良い事に、この「百年遺跡」には無数の出入口があり、それの全てを管理するのは不可能と、出入りが自由になっている。
「出入りが自由だから、冒険者も知らない相手がいたところで気にしない、相互不干渉が暗黙のルールだった筈。もちろん私闘や襲撃もご法度。襲撃狙いの奴がいなくはないけど、それは別に野盗扱いで良かった筈だし……」
つまり、こっそり紛れてこっそり脱出したところで、それがバレる危険は低いという事だ。また「百年遺跡」周辺は冒険者の自治に任せている為、冒険者ギルドの力が強いというのもイアリアにとって嬉しい情報である。
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