第4話 宝石は方針を決める

 そこからイアリアは2日程空が見える穴の近くで過ごして、外の様子を窺いつつ体内時計を修正した。なお外は相変わらず、時々風の音がするくらいで何の音も聞こえない。

 ただ風の音がする事、他に音がしない事、そしてこの地下洞窟の事を考えて、イアリアは現在地点が、恐らくここエルリスト王国西部にある山岳地帯……西隣のパイオネッテ帝国と接する国境にもなっている山脈と、それに連なる山のどこかである、と推測した。

 サルタマレンダ伯爵領の中心となるのは、その山脈が僅かに低く、幅のある谷が存在している場所だ。そこぐらいしか山を越えられる場所がないとも言う。


「だからそこに一番大きな城塞都市があって、小競り合いもその谷と言いつつ高低差も含めて複雑に入り組んだ場所で起こっている筈よね」


 少なくとも、イアリアが学んだ知識ではそうなっていた。もちろんその山岳地帯に、こんな地下洞窟があるなんて話は聞いていない。

 まぁ、サルタマレンダ伯爵とその側近だけが知っている、ぐらいの機密情報であれば知らなくても無理はないし、こんなに巨大な地下空間を把握していない訳がないとも思う。というか、把握していない方が問題だ。

 とはいえ、そういう本格的な領主としての仕事を隅までイアリアが把握している訳がない。実際の所は不明なままだ。が。


「何にせよ、師匠が迎えに来るのを待たないといけないのだから、探索は必要ね」


 今の所唯一空が見えている穴は、イアリアが通るには小さすぎるし、よじ登れそうな足場も無い。外に出る為には適さないので、他の場所を探すしかない。

 それにこの地下洞窟を、サルタマレンダ伯爵が把握しているいないに関わらず、どこから何が来るのか分からないのではおちおち野営をする事も出来ない。それにここは行き止まりだ。逃げ場がない、というのは、イアリアにとってかなりのストレスだった。

 なのでイアリアは体内時計を修正し、本格的な洞窟の探索に出る事に決めた。もちろん、地上に出れそうであれば出たいのは確かだが、それ以上に。


「本当にここが、パイオネッテ帝国時代に掘られたものなら、危険すぎるもの」


 一応イアリアは、サルタマレンダ伯爵令嬢としての教育を受けている。そして魔法学園において、国の軍に所属する魔法使いになる為の教育も受けている。故にこそ、かなり関係が険悪な隣国への危機感をちゃんと持っていた。

 その隣国に関係するかもしれない、謎の地下空間。もちろん逃げられるのであれば逃げているが、それにしたって地上に繋がる道を探す為の探索は必要だ。

 イアリアはもちろん、自らの師匠である「永久とわの魔女」ことナディネが迎えに来てくれることを疑っていない。……が。それはそれとして、魔力を与え、暴走させ、転移によって「誘拐」を行おうとする何者かが自分を狙っている。それに対して、しばらくは独力で逃げ回らなければならない、という現在の状況も、ちゃんと理解していた。


「そもそも、師匠が用事に出て戻ってこれないっていう時点でおかしいと思うべきだったわ。分かっていたけれど」


 ……問題は。そんな事が可能な、それらの裏で糸を引く相手が何者か、という事なのだが。それについては、全く分からない。恐らく今の状態では情報が足りず、理解する事は出来ない。イアリアはそれも分かっていた。

 なので。ひとまずは自分で作った簡易的な地図をもう少ししっかり書き直し、魔薬と魔道具をしっかり用意して、野営の後をしっかりと片付け、洞窟の探索へ集中する事にする。


「……本当に、どうなっているのかしらね」


 洞窟の作りにしても、その由来にしても……自分を狙っているらしい動きについても。

 イアリアは最後にそれだけ零して独り言を終わりにして、洞窟の奥へと歩を進めていった。

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