第3話 宝石は考える

 つらつら考え事をしつつも、イアリアは謎の洞窟を進んでいった。今の所岩の中に穴を穿ったような洞窟は崩れる気配もなく、ランタンの炎の揺れは一定で安定している。

 途中何度か枝分かれがあったが、イアリアはそのたびに空気の流れを確かめて、一番流れが強い場所を選んで進んできた。もちろん迷子になっては困るし、行き止まりだった時に引き返す為、簡単な地図は作っている。

 そうして何度か、空気が通ってるだけの崩落跡や、小動物のねぐらとなっている場所を戻ったりして歩く事しばらく。


「……そう言えば、起きた時点で夕方だったわね」


 ようやく空が見える穴を見つけて、その向こうに満天の星空が広がっているのを確認し、現在の時刻を再確認した。そう。直前に色々あったのだが、本来イアリアは徹夜明けだった。

 なのでこれ以上動くのもどうかと思い、その見つけた穴が、向こう側は見えるが人間が通れるほどではないのもあって、少し場所を戻って野営する事にした。

 内部空間拡張能力付きの鞄マジックバッグがあるのでその辺の準備は万端だ。一応念の為、虫よけと獣除け、魔物除けの効果があるお香タイプの魔薬をいくつか併用し、簡単にだが寝床の隠蔽を行って、イアリアは眠りについた。


「熟睡は出来なかったわね。当然だけれど」


 で。夜の間に見つけた穴から燦々と日の光が差し込む……つまり昼頃になって、ようやくイアリアは起きた。周囲を確認するが、相変わらずなんの音も聞こえない。光が差し込む穴からは僅かに風の音が聞こえるが、人や獣の声は全くないようだ。

 ここでイアリアは、エルリスト王国の地図を頭の中で広げる。……とはいえ、そこまで詳しいものではない。本当にざっくり、人の生活圏を繋げただけのものだ。

 なので、葉擦れの音もしないから森の近くではない、風が乾燥しているから水場が遠い。この程度の情報では、現在位置を絞り込む事は出来なかった。


「というか、こんなに広大な地下空間があるなんて聞いてないわよ?」


 そこまで考えて、ここにきて最大の疑問点を口に出すイアリア。そう。少なくとも書類上はサルタマレンダ伯爵令嬢であり、魔法学園で国の地理について勉強したイアリアですら、国の西側にこんな地下洞窟がある事は露とも知らなかった。

 それも、少なくともイアリアが歩いた限りは大体ずっと同じ大きさの空間が続いている。エルリスト王国東端のディラージ……鉱山都市と呼ばれて、国境でもある鉱山に掘られた坑道でもここまで綺麗に掘り抜かれてはいなかった。

 当然、自然物とは思えない。となると自動的に人工物という事になる訳だが、ここまで大規模なものとなると、少なくとも最低で国ぐるみであり、公共事業の類になる筈だ。すなわち、広く知られていなければおかしい。


「周りの岩も、特に鉱物が含まれている訳では無いようだし……となると、やはり、移動する為のもの、よねぇ……」


 地上に出る為の手掛かりを探して、イアリアはこの洞窟を調べていた。それはこの洞窟がある地層を特定する為、壁の鉱物を調べる事を含めている。だがどこを調べても一様に、この辺りの土地を構成する岩しか検出されない。

 人工物であるなら、大変大規模なものとなる。なのだが、だとすれば少なくともここエルリスト王国に置いて知識を「持っている」側であるイアリアが知らないのはおかしい。

 ましてここは、かつては「国外」だった場所だ。……つまり。


「……隣国の作った地下通路って可能性もあるのかしら」


 エルリスト王国は、南以外の方角を険しい山脈に囲まれている。そして南側は、その全てが海に面している。現在の陸続きに属する国境はどちらもその山脈を境としているが、歴史によれば、以前はもう少し西側の面積が小さかったはずだ。

 今もそこまで良い仲ではないどころか、サルタマレンダ伯爵がそれなりの規模の領軍を保有しにらみを利かせる程度には不穏な相手である。辛うじて戦争にはなっていないものの、小競り合いは絶えない。

 その国の名前はパイオネッテ帝国。……海に面して大きな鉱山も豊かな穀倉地帯も持っているにもかかわらず、外部に侵略する機を常に窺っている、戦争を好む国である。

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