第19話 宝石は推測する
無事に地上への伝言が伝わり、それを聞いたらしいまとめ役が、一部の冒険者は他の場所の警戒へ回ってほしいという指示を出してきた。それを持ち帰ったのは、伝言役を務めた冒険者だ。
例の、矢を飛ばし続ける仕掛けを知っている冒険者が言うには、その遺跡は火薬も多用されていたらしい。なのでもしかしたら、この辺りにも似たような遺跡があったかもしれないし、その場合はもっとたくさんの火薬があってもおかしくないそうだ。
なのでイアリアを含めた一部の冒険者は、矢が飛んでくる方向の逆を主に、防壁のあちこちへ散らばった。そしてその再配置が完了してから、反撃及び森への攻撃が始まった。
「温存しておいて良かったわ、ねっ!」
イアリアは単独で、矢が飛んでくる方向から右回りに90度移動した辺りで待機していたのだが、流石に眠気に勝てなくなりそうだったので、眠気覚ましの魔薬……狂魔草を加工した栄養剤を飲んだ。
ちょっと自分でもびっくりするほどの効果でばっちり覚めたイアリアの目に、こそこそと動く少人数の集団が映ったのはやはり魔薬の効果だろう。こと盗賊の類には容赦のないイアリアは、その運んでいるものを躊躇いなく、爆発する小瓶で撃ち抜いた。
すると――ズドォオン!! と、明らかに小瓶以上の爆発が起きた。もちろんその何か、恐らく大きな樽を運んでいた集団がどうなったかはお察しの通りだが、問題は、追加の火薬があった、という事だ。
「というかあの火薬、私が知っている火薬より威力が高い気がするわね……? いくら何でも、ちょっと爆発が強すぎるような気がするのだけど……」
どうやらしっかり守られているらしく、火矢程度では爆発しないようだ。それを一発で爆発させて運搬を阻止出来るという事で、イアリアは防壁の上を走り回っていた。
地上で炸裂する炎は、一瞬とはいえ周囲を明るく照らし出す。爆発に巻き込まれた運搬者がしばらくそこに残る事で、酷いには違いないが、松明のような役割を果たしていた。
よってその内運搬者を狙う事が出来るようになり、イアリアの仕事も収まったのだが。イアリアが覚えた違和感は、火薬そのものについてだった。そう。いくらなんでも、威力が高い気がするのだ。
「確かに、数人がかりで運ばなければならない大きさの樽だったけれど……だからと言って、防壁の上まで爆風が届くなんて事は無い筈よね?」
爆風の強さは、元となる爆発に準じる。グゼフィン村の防壁は元国境の城塞都市だけあり、相当な物だ。それこそ、大砲だって何発か撃ち込まなければいけないだろう。そして強度があるという事は、それだけ高さもあるという事だ。
地上にあってその上まで届く爆風。いくら大量にあったとはいえ、イアリアの知る火薬にそこまでの威力は無かった筈だ。それこそ過去にイアリアがやっていたのと同じく、魔石を材料として加えたりしなければ
「…………まさか」
ここで、イアリアの中で何かが繋がった感覚があった。
明らかに「戦略」を考え運用する頭。野生動物を嗾けて消耗を促す策略。遺跡に残っている迎撃を用途とする機構の再現。そしてこの、質がおおよそ均一で爆発力の高い火薬。
それを行えるだけの知識という財産を持ち、しかし山賊に組して、略奪を行い続ける人間。当てはまるのは。
「元、魔法使い……?」
そう。イアリアと同じく、魔石生みに変じた魔法使いがいれば……その全てに説明がつく。何しろ魔石生みというのは、「資源」なのだから。
なおかつ。その元魔法使いが平民の出であり、貴族の養子にさせられたのであれば、山賊となってでも助けようとする「家族」がいる可能性もまた、高い。
……そして人間というものは。最初の一度は必要に駆られてであっても、一線を越えてしまえば。
「……」
慣れて。麻痺して。――躊躇いも、罪悪感も、覚えなくなるものだ。
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