第18話 宝石は応援を待つ

 手作りと思われる破城槌。これを止める為だけなら、何も爆発する小瓶を使う必要はなかった。それこそ進路上に、非常に滑りやすくなる魔薬や、逆に踏めばくっついで剥がれなくなる魔薬をぶちまけておく方が確実だっただろう。

 だがそれでもイアリアが爆発する小瓶を使ったのは、鐘を鳴らすのでは間に合わない、と思ったからだ。それに足止めを目的とした魔薬では、勢いの付いた重量物は止め切れない。そう思ったのもある。

 故に、殺傷力の高い爆発する小瓶を、少なくとも重量物、恐らくは丸太を半分に出来れば、防壁を崩すにはいたらないと。そう判断して、叩き込んだ。


「っく、まぁ、狙うわよね……!」


 ズドォン!! と派手な爆発音と爆炎が上がる。その直後にイエンスが辿り着いたのか、けたたましい鐘の音が鳴り響き始めた。とはいえ、村人は現在その大半が眠り薬の効果で、深い眠りについて目覚める事は無いのだが。

 そしてどうにか狙い通り、丸太と思われる重量物を半壊させて、周囲の運び手にも被害が出たのか、防壁に届く前に勢いが落ちて止まったのを確認。……したところで、イアリアを狙って、矢がこれでもかと射かけられ始めたのだ。

 恐らくイアリアが防壁から森を見ていたように、森からも防壁を見ていたのだろう。であれば、何かの遠距離武器で、あの爆発する何かを飛ばした、というのは分かる筈だ。そして強力な遠距離武器を持つ相手がいるなら、動けないように封殺する。当然である。


「防壁がしっかりしていて助かったわ……」


 もちろん射手である山賊からすれば、しっかり殺すつもりで矢を放っているのだろう。だがグゼフィン村は、元が国境の城塞都市だ。村と呼ぶには違和感しかない丈夫さの防壁は、ただの矢程度では小動もしない。

 それはイアリアが隠れている屋上部分の壁も同様であり、顔は出せないし追撃も出来ないものの、イアリア自身が討ち取られる、という危険は今の所ないだろう。それこそ相手が、イアリアと全く同じ手札、爆発物を飛ばすという事が出来ない限り。

 それこそ、大砲でも持ち出さなければ、このまま矢を無駄打ちさせているだけで十分だったりする。何しろ相手は山賊だ。その物資には限りがあるのだから。


「……まぁ、黒幕によっては、潤沢な攻城戦用の物資があるかもしれないけれど」


 そういう懸念事項もあるにはあるが、黒幕がいると決まった訳でもない。とりあえずは今目の前の防衛戦である。

 イアリアが爆発する小瓶を使い、鐘の音が鳴り響き、それに劣るとはいえ矢が雨のように降ってきて防壁に当たる音が続いている。いくらかは防壁の中まで飛んでいってしまったようだが、防壁からしばらくの空間は畑になっている為、家屋への被害は出ない筈だ。

 そもそも、下から上へ撃ち上げるという時点で矢の威力などたかが知れている。目などの急所に運悪く直撃しない限り、ちゃんと鎧を身に着けていれば無視できる程度だ。


「それにしても、随分と人数も多ければ、矢の数も多いわね」


 ただ、イアリアが身に着けているのは分厚く雨除けの為に加工されているとはいえ、ただのフード付きマントである。その下に戦闘用の魔薬を並べているのもあり、うっかり射抜かれて自爆、という最悪を避ける為に大人しく隠れている訳だ。

 だがそれはつまり、ちゃんとした金属鎧を纏う守役騎士や、皮が主とはいえ魔物素材を使った鎧を身に着ける冒険者からすれば、顔や首さえ守れば反撃への問題はないという事だ。


「おーおー、数だけは上等な事で」

「下から出る奴らの邪魔はすんじゃねーぞー」

「おっ、嬢ちゃんいたのか。下に盾あんぞ」

「こう見えて非力なのよ。動きにくそうだから止めておくわ」


 今は夜中であり、月も細く頼りない。だがそんなものは関係ないとばかり、防壁の上へと遠距離武器を持った冒険者たちが集まって来た。それぞれまだ止まる様子もなく飛んでくる矢に対して防御しつつ、その発射点を狙って構える。

 そして会話の内容からして、恐らく反撃に合わせて門を開き、森へ殴り込みをかける為に冒険者が集まっているのだろう。

 しかしそれにしても、と、イアリアはちょっと引っかかった点を、一応という形で伝えておくことにした。


「あまりにも発射点が変わらないし、飛んでくる勢いも全部同じなのよね。人間だとするならちゃんと訓練されていないと、こんな数は飛ばせないと思うのだけど……一応、人間以外の何かがいるかもしれないから、気を付けて」

「人間以外? 魔物が矢を飛ばしてるってか?」

「あー、そういやどっかの遺跡で水車みたいな、ひたすら矢を飛ばしてくる仕掛けがあったな。……結構でかかったが、まさかあれがあるとかか?」

「おい、一応地上班に気ぃつけろって伝えてこい!」

「俺行って来る。ちょっと待ってろ!」


 ……水車みたいな、ひたすら矢を飛ばしてくる仕掛け、とは。

 と、イアリアは思わず首を傾げたのだが、実際そういう仕掛けがあったらしい。冒険者は遺跡探索も本業だ。だから、あると言うならあるのだろう。

 問題は、遺跡に残っているような文字通りの遺物を、こんな田舎に引っ張り出してきた……あるいは、自らの力で作り上げた誰かがいる、という事なのだが。

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