第14話 宝石は驚く
イアリアがグゼフィン村に来て、13日目の昼。
「……、は?」
その日は未明に続き、昼前頃にまたしても野生動物が襲撃して来ていた為、冒険者の動きも若干鈍かった。まぁイアリアはその辺関係なくここまで同様の、つまり午前中に魔薬の納品依頼を受けて片付け、昼食は冒険者ギルドで食べて、午後の依頼はどれにするかと考えていた。
だが、食べ終わって席を立ったところで、南側……昼前頃に野生動物が襲撃してきた方向の丁度真逆から聞こえてきたそれは、イアリアをして、一瞬の思考停止を余儀なくされる程度の衝撃があった。
それはすなわち。
「爆発音……?」
イアリア自身は爆発する魔薬の小瓶を始めとした魔道具、いやそれ以前に、魔法使いとしての経験から爆発音そのものには慣れている。
だが同時に、爆発物というものがその辺をちょっと見回せば見つかるようなものではない事も知っている。鉱山都市の異名を持つディラージのような例外はあるが、その認識は危険物であり、一般的には平民が持つ事を許されない「武力」だからだ。
もちろんだが、火薬そのものが悪いという訳では無い。遠距離武器の射程を出す為に火薬を使う冒険者もいるし、自警団や守役騎士も火薬の扱いぐらいは心得ているだろう。だが。
「鐘も鳴っていないのに、何故……っ!?」
今、イアリアが席を立ったところで動きを止めた時の爆発音は、その比ではない。それこそ、イアリアが作り、いつか神殿へ強行突入する際に正面扉を吹き飛ばした、あの程度の威力はある筈だ。
そして何より、「爆発音が十分響いてから」鳴り響き始めた鐘の音。これもおかしい。それこそイアリアが使う魔薬ならともかく、通常の火薬でこれだけの爆発を起こそうと思えば、それこそ、大人がすっぽり入る程の樽を、5つは積み上げなければならない筈だ。
だというのに、外からの襲撃、警戒を促し応援を呼ぶ鐘の音が、鳴らなかった。爆発するまで。これが何を意味するか、と、言えば。
「――今すぐギルドの周囲を念入りに見回って!」
「はっ、えっ!?」
「今の爆発が外からじゃないなら、内からだからよ! 内部で次に吹き飛ばすとしたら、グゼフィン村の中央部か
「!! っ、緊急依頼です! 協力を要請します!」
イアリアが冒険者ギルドのカウンターに鋭い声を飛ばす。爆発音と、それに続いた鐘の音に流石のギルド職員も動揺していたようだが、イアリアが周囲の冒険者にも分かるように説明を付け足すと、そこからの動きは早かった。
「ちょ、ちょっと待てよ! 見つけてどうするんだ!?」
「火薬なら水をぶっかけた上で容器を壊せば湿気て使い物にならなくなるわ! この建物1つでも吹っ飛ばすのには樽で必要なんだから、きっちり蓋のされた知らない樽があれば警戒して!」
「た、樽か。なるほど。いや、火薬なら木箱もあるか」
「粉を入れるんだからしっかりしてるやつだな。開けて中身を確認すればいいか?」
「いいえ、蓋を開けると爆発する仕組みがついている可能性があります。……アリア様、水に反応して高熱を発する魔薬、もしくは薬草を始めとした素材は存在しますか?」
「……あるわね。それもそれなりに。この辺でも手に入る奴で」
「罠解除だな。仕掛けた奴が近くにいるかも知れんし、スカウトのいるパーティを中心に動くぞ!」
今更になって建物の外からは避難する声や、爆発に対する恐れの声が上がり始めていたが、普段は野生動物の相手がほとんどとはいえ、荒事に慣れている冒険者は覚悟の決まり方が違う。
ばたばたとしながらも役割を決めて、しっかり緊急依頼の受注をしてから飛び出していった冒険者たち。彼らを見送ったイアリアは息を1つ吐いて
「ところで、もし爆発物の処理を誤った場合や待ち伏せがあった時用に、効果の高い魔薬が必要な気がするわね?」
「そちらも緊急依頼として協力を要請します。よろしいですか、アリア様?」
くる、とカウンターの方を振り向いて、そんな事を言った。それを予測していたギルド職員が、別に依頼用紙を取り出して手続きに入る構えを見せる。
その内容も対応も、コモンレアの冒険者に対するものではない訳だが、まぁ、今更の話だ。
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