第13話 宝石は裏方を務める

 不定期に、けれど必ず1日1度以上。方向も規模もまちまちな野生動物の襲撃は、イアリアがグゼフィン村に来てから10日目を迎えても変わらなかった。

 だからか、8日目の時点で野生動物に対処するのは、依頼を受けた冒険者となっている。まあ冒険者も冒険者で、1週間は村の中で缶詰め状態だったのだ。生き生きと返り討ちにしているとイアリアは聞いた。

 ただ、主力が入れ替わった。これは間違いないだろうし、これを外から見ているのであれば、守役騎士に疲れが溜まったからだ、と判断する事になるだろう。


「そういえば、評判はどうかしら? 冬の間に研究してみた滋養スープは」

「一言で言うなら、大絶賛ですね。まぁその効果を過信して無理をし過ぎる方もいるようですが、用法用量を守るというのは薬において基本ですし」

「それはそうよ。まぁでも、よく効いているのなら何よりだわ」


 ちなみに、そんな事は全く無かったりした。……主にイアリアが作って冒険者ギルドに治験を依頼した、保存食で無毒化した狂魔草を使った魔薬の効果が大変高かったので。

 滋養スープ、と言っているが、メインの素材が保存食であり、主に煮込んで味と効果を調節しているからそう呼んでいるだけだ。実際の効果は、下手をしなくても傷を治す魔薬なんかよりよほど強い。

 イアリアとしても、効果が高すぎる各種素材を使い切ってしまいたかったので、このタイミングで出せるのは非常に助かっていた。何せ争いが避けられない非常時だ。少々作り手と素材が怪しい魔薬でも、役に立つなら導入してもらえる。


「大変評価が高い為、前倒しで購入希望が出ているほどです」

「ダメよ。ちゃんと副作用が出ないかどうかまで調べないと。後で悪者にされるのは嫌だもの」

「もちろんです。ですがこの分であれば、よほど致命的な副作用が出ない限りは買取可能になると思われます」


 イアリアからすれば、貴重ではあるが扱いに困る素材を消費出来た上にお金が手に入る。困っている人が誰もいない、どころか喜んでいる人がいるなら最高の結果だ。

 それでも守役騎士が下がって冒険者に襲撃してくる動物の対処を任せたのは、もちろんだが、冒険者ギルドやグゼフィン村の上に位置する誰かが、「戦略」においてそうした方がいいと判断したからである。

 戦力を誤認させる事が有効に働く、というのは、イアリアにも理解できる。それが、味方にとって有利な条件であればなおいい。相手の知らない戦力や武器は、使い方によっては戦況を一手で変える切り札にもなり得るのだから。


「まぁ他にもいくつかあるから、一段落したら次をお願いするわね」

「分かりました」


 というか、少なくともエデュアジーニ……冬ごもりをするつもりで、結局狂魔草の駆除に走り回り、その無毒化の方法を編み出し、最終的にスタンピードからの防衛戦に参加したあの村で見せた直接戦闘力。あれ1つでイアリア自身が鬼札になるだろう。

 まぁ現時点で非常に効果の高い魔薬を治験として提出し、備蓄してある魔薬の量を増やしているのだから、上の立場の人間からはとっくに切り札扱いされていてもおかしくないというか、恐らくされているのだが。

 イアリアとしても、このまま旅に出るつもりはない。ほどほどに大人しく、出来れば快適に過ごしつつ、恐らく既に戻って来て自分がいない事に気付いているだろう師匠……正真正銘の切り札である「永久とわの魔女」であるナディネが迎えに来るまで時間を稼げれば良いだけだ。


「(問題は、ここが自称お父様の領地に近いというか、恐らくは元お父様である男爵……自称お父様を寄り親とする貴族の領地だという事なのだけど)」


 なので、冒険者ギルドの上はともかく、グゼフィン村の上にはあまり構ってほしくないイアリア。それが無理なのは状況を冷静に見ている部分で分かっているが、それこそ功績を讃えて叙爵、なんていうのは最悪だ。


「(流石に、コモンレアのままそんな流れにはならないでしょうし。そもそもそれ以前に、冒険者ランクを上げる話が来る筈よね)」


 だからイアリアは冒険者ランクを据え置きにしているのだが。そして当然、冒険者ギルドはそのことを把握している。少なくとも、冒険者兼魔薬師、という存在が希少なうちは、大丈夫だろう。……と、思いたいイアリアだった。

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