第7話 宝石は遭遇する
その日はとりあえず順当に傷を治す魔薬の納品依頼を受けて、ここも構造は同じな為、2階で依頼価格の素材を買って、魔薬を作成。ただし以前とは違い、既に自分の魔力が使い切れないものだとイアリアは知っている。だから、魔石の投入はしなかった。
それでも十分な質があるのがイアリアの作る魔薬だ。どうやら人数が一気に増えたことで安価な魔薬の需要が跳ね上がったらしく、冒険者ギルドのギルド職員には大変感謝された。
そのまま翌日、翌々日と同じように日常でも使う魔薬の納品をこなしていく。イアリアとしては素材採取にも出たいのだが、今の状態で外に出て山賊に狙われては、流石にイアリアだって分が悪い。
「(今はリトルもいないし、私が万が一人質にでもされたら迷惑どころではないものね)」
周辺の村の人々をグゼフィン村に避難させたのは、ある種の籠城をする為だ。その状態でのこのこ外に出るなど、狙って下さいと言っているようなものである。もちろんただでやられるつもりなどないイアリアだが、相手が頭の回る賊だというなら、隙を見せる訳がない。
当然ながら、その行動によって山賊を釣り出す、大規模な作戦であるなら話は別だ。しかし現状はまだお互いに様子を見ている段階だし、少なくとも壁の内側に畑があり、春という事でそろそろ種まきが始まっているグゼフィン村には余裕がある。
一方山賊だが、その襲撃間隔は長くても1週間ほど。大規模な山賊なのか、それとも複数の山賊がいるのかは分からないが、複数の場所が立て続けに襲われる事もあったらしい。つまり、それほど余裕がある訳ではない。
「蓄えを作る。なんて発想する程度ならともかく、実行できるのなら山賊なんかやってないわよね」
そういう事だ。そして実際蓄えがあったとして、それが何日も何週間も持つようなものではないだろう。奪ったものというのは、存外早く無くなるものだ。
もちろん山で生きているのだから、その恵みを採取する事ぐらいは出来るだろう。山の獣を狩る事ぐらいはするかもしれない。だからと言って、それこそ冒険者ギルドやグゼフィン村の代表達が想定した、1ヵ月ほどは絶対に持たない。
だから必ず、それまでには仕掛けてくる。そこを返り討ちにする事で、山賊そのものを狩り尽くす。それをする為の集団避難であり、籠城だ。外から来た人間が、そこをいたずらにひっかきまわしてはいけない。
「……だから、大人しくしておくべきだと、思うのだけど。ねぇ?」
「うっ……」
4日目。その日も堅実に魔薬の納品依頼をこなし、順調な日々に機嫌よく宿に戻ろうとしたイアリア。しかしその宿の前を、何故かイエンスがうろついていたのだ。
入口の前を右に左に行ったり来たりと完全に不審者だったし、村における噂の広がりは非常に速い為、初日のやらかしが既に知れ渡っている。放置しても守役騎士に連絡が行くのは時間の問題だっただろうが、イアリアは宿で出される夕食を楽しみにしていたのだ。だから、ここから時間を潰す為に、遠回りするのは嫌だった。
だからしぶしぶ声をかけたのだが……まぁ、初日にやらかして、昨日まで全く姿を見なかった辺り、よほど絞られたのだろう。ハイノ村で出会った時の陽気さとは打って変わって、しょんぼりとした様子で、イエンスが言う事には。
「お嫁さんを見つけるか子供を作って、ある場所まで辿り着かなきゃいけない? それもあと1ヵ月で? 無理でしょう。馬鹿なの?」
「ぐ……」
「しかもその話を持ってこられたのは1年も前ですって? 今の今まで何をやっていたのよ」
「その……世界中をお嫁さんを探して……」
「その結果があの様? はっきり言うけど、あなた口説き文句の才能ないわよ」
「ぐうの音も出ない……」
なおどうしてここにいたのかと問えば、ここのレストランは美味しいが値段帯が上と聞いて、まだ会っていない女性がいるのでは、と思ったらしい。馬鹿だ。と、イアリアは内心呟いた。
「しかもそのある場所も言えなければ、辿り着かなきゃいけない理由も言えない? それでこの村を出ようとしたら止められた? 当然でしょう」
「それは……まぁ……」
「というかあなた、今晩の宿はどうなってるのよ」
「……」
「言っておくけど、私は嫌よ。凍死する季節は過ぎているし、素直に野宿すれば?」
「村の中で野宿はきっついんだが!? 主に周りの目が!」
「自業自得よ」
「うぐっ」
本当に何がしたいのか分からないが、とにかく何もかもが空回っているのでは? と思い始めたイアリア。もちろん、付き合う義理は無い。なのですっかり遠巻き、を通り越し、人通りが無くなった周囲を見る。
だから。――見逃した。
「って、君も魔力持ちじゃないか」
「、は?」
あっけらかん、と告げられた言葉に視線を戻せば。焦げ茶だった筈の目が、夕闇にも輝くような金色に変わっている。人ではあり得ないその色彩。それは確か、創世の女神が持つとされている色だ。
曰く、不思議な力があるとされるその瞳。見るだけで相手を支配できるとか、明らかに荒唐無稽なものも存在するが、たしかその能力の中には……相手の魔力の有無を識別できる。そういうものも、あるとされている。
とはいえ、ほとんど伝説の類だ。長らく最強の名をほしいままにしている“
「しかも魔力量もか――」
だが、その「あり得ない」が目の前に突然現れ。少なくともイアリア自身が秘匿に秘匿を重ねていた事実を暴こうとしている。
それを理解した瞬間、イアリアは、全力で、イエンスに拳を叩き込んでいた。
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