第5話 宝石は到着する

 どうやらハイノ村に残っていた村人たちは、周辺の村から見てもかなり遅い……というか、最後に避難してきた事になるようだ。何しろイアリアが護衛完了の証書を同行していたギルド職員の女性に発行してもらっている間に、「もう西の端しか開いてないよ」という言葉が聞こえたので。

 グゼフィン村という、名称と規模が見合っていない村は、かなり広い。そしてその広い面積の内、外側、周囲の脅威から内側の住人を守る為の壁から半分ほどは、建物が撤去されて畑へと作り替えられていた。

 それでもまだ周囲の村の人間を全て収容できるというのだから、やはり村というのは間違っている気がするのだが……と思いつつ、イアリアは冒険者ギルドのグゼフィン村支部へと到着した。


「そういや、宿はどうすんだ?」

「仮にも女性の宿泊先を聞いてどうするつもりよ」

「は? お前が女?」


 冒険者なので当たり前だがイエンスと一緒に移動する事になったのだが、その最後に何か、こう、笑い交じりで言われた気がするが、イアリアはスルー。そのままグゼフィン支部のギルド職員に、おすすめの宿を聞いた。

 イエンスが便乗して聞こうとしたので、もちろん別でと付け加えるのも忘れない。なんだか不機嫌そうな気配がするが気のせいだ。もちろん、肩に手を回そうとした分には叩き落としておいたが。


「距離の縮め方がおかしいわよ。それ以上近寄らないで頂戴」

「えぇ、なんだそれ。付き合いわりぃな……」

「宝石付きの冒険者様に対して無謀なのはあなたでは?」

「…………、な」

「命が惜しければお静かに」

「ん、ぐぅ……っ!!」


 そうしてイアリアが「相手にしないでやっていた」にも関わらず絡んで来ようとするイエンスに対し、特大の釘を刺しつつストップをかけてくれたのは、話をしていたギルド職員だった。あの、いつの間にか3つに増えていた宝石の威光は大変と強い。

 声はどうにか抑え込んだイエンスが、それでも目玉が零れんばかりにイアリアを見てくるが、もちろんイアリア本人はそれをスルー。オススメの宿を聞いて、提示していた冒険者カード(カード入れに入った状態)を受け取り、その場を離れた。

 イエンスが受付前でギルド職員に捕まえられているのを気配で確認して冒険者ギルドを出て少し進み、中央通りの人混みに少し紛れてから、道の端に避ける。


「……冒険者ギルドのギルド職員って優秀よね。そうでなくては生き残れないという事かしら」


 そして、冒険者カードの影に隠して渡されたメモを開いた。そこには、先ほど受付で聞いたものとは別の宿の名前と地図が書かれている。あそこで聞いた分はイエンスも知っているので、追いかけてきかねない。それに気付いて、そうならないように伝えてくれたのだろう。

 もちろん有難くその地図と宿の名前をその場で覚えて、メモ自体はしっかりと荷物の中に押し込むイアリア。イエンスに絡まれていた為依頼は見れていないが、どこの支部でも魔薬の需要が絶える事はない。

 まして、これから山賊と一戦構える可能性が非常に高いのだ。冒険者を偽装して村に侵入する程度の頭があるのだから、もしかしたら毒の類も使ってくるかもしれない。


「ま、普通に仕事はするわよ。しっかりと相応の対価を貰った上で、図ってくれた便宜の分ぐらいはね」


 もちろん魔薬ではない、普通の薬というのも存在する。だがやはり、確実さ及び効果の高さで軍配が上がるのは魔薬だ。見た目だけなら魔薬師だって何十人と抱え込んでいそうだが、人間の規模だけを見ればどうあがいても村なのだろう。

 つまり、魔薬を作る、等という特殊技能を持った人間は、まずいない。もちろん、それを越える特殊技能である魔法を使える人間なんてもっといない。その状況で、戦闘になる可能性が高く、またその相手が厄介であるのなら。

 腕は良いかもしれないがただの戦士と、薬を作れる魔薬師。どちらを重視するかなど、火を見るよりも明らかという奴だ。

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