第2話 宝石は立ち寄る
山の中を歩き、けもの道を辿り、猟師が使うらしい小屋を見つけて、どうにかイアリアがその村に辿り着いたのは、遭難開始から2度の野宿を挟んで3日目の事だった。
最悪国外に放り出されている可能性まである事を覚悟していたイアリアだったが、寒さは北の山脈から、暑さは南の海から、そして季節は東から西に移り変わるエルリスト王国において、ザウスレトス魔法学園より寒さが残り季節が遅いこの場所は、国内の北西に当たる地域で間違いないと確信している。
となればもちろん、冒険者ギルドの支部がある筈だと踏んで人の集落を探していた訳だ。約1年の冒険者生活を経て、イアリアの野宿スキルも相当に上がっている。
「問題は、1ヵ月で人が移動できる距離じゃないって事なのだけど……エデュアジーニから非常識な手段で立ち去ったのは知られているだろうし、それを聞いてから、何らかの魔力暴走に巻き込まれたらしい、って事だけ説明しておきましょうか」
むしろ「師匠」ことナディネ……イアリアの認識は「魔法を無駄遣いしまくる弟子馬鹿」だが……世間一般には、長らく世界最高の魔法使いの座をほしいままにしている「
等と思いつつ、村の全体を森から確認したイアリア。そこから村の入口を探してそちらに移動し、少し離れたところから、土を踏み固めただけの道へ出て、さもずっと前から道を通ってきましたよという風に村へと近づいて行く。
「だ、誰だ?」
「冒険者よ。この村、宿屋はあるかしら? 野宿が続いているの」
「冒険者カードを見せろ!」
「……。流石に投げ渡せないから、ここで掲げるわよ」
そこまでで不審な点は無かった筈だが、門の横に居て、衛兵の真似事をしている推定村人の対応が妙だった。ただしイアリアは森から村を見た時点で、その動きに妙なものを感じている。
どうしてこう、何かしらの騒ぎに巻き込まれ続けるのかしら……。と、内心遠い目になってしまったイアリアだが、しっかり下ろしたフードの下にそれらは全て隠れる。結果として動じることなく、一人前の証であるコモンレアランク、鉄のような金属のカードを掲げてみせたように見えただろう。
カード入れに入れたまま掲げたそれは、しかし村人にとっては真っ当な冒険者カードに見えたようだ。実際真っ当なので問題は無いのだが。
「あぁ、良かった。この辺で最近、山賊の一部が冒険者に成りすまして村に入って、内側から門を壊すって話があったらしいから……んっんん! ようこそ、ハイノ村へ!」
「ろくでもない方向にだけは頭が回る奴っているわよね」
どうやらそういう事件があったらしい。この地域での山賊、と聞いてイアリアの脳裏によぎるものがあったが、それには蓋をする。そして当たり障りのない答えを返して、1人分だけ開かれた門を通った。
村の中はどことなくピリピリしているというか、落ち着かない空気が漂っている。……もしかしたら、件の「話」というのは、思った以上に近い場所で起こったのかもしれない。
これは早々にこの村を立ち去るべきだろうか。とか思いつつも、まずは他よりいくぶん頑丈そうな建物を見つけ、そこに冒険者ギルドの看板が出ているのを見て、立ち寄る事にした。
「うるせえ! 山賊なんか相手にしてられっかよ!?」
「そんな事言わずにどうかっ! どうかカカシ役でもいいのでっ!?」
「カカシでもなんでも村に居たら殺されるじゃねーかっ!」
「そこを殺されないように頑張ってほしいんですがっ!」
「無理なもんは無理だっつってんだよぉ!?」
なお、そう決めた一歩目を踏み出した瞬間、そんな怒鳴り声を上げつつ皮鎧を身に着けた男と、その男の腰にしがみついて半泣きになっている冒険者ギルドの制服を着た若い女性が飛び出してきた。
怒鳴り合いの内容としては、村を出てどこかに逃げ出したい冒険者の男と、それを何とか思いとどまらせて村の防衛に回ってほしいギルド職員、という感じだろうか。そして内容的に、この男がこの村にいる冒険者の最後の1人らしい。
……面倒な事になってるわね。と、イアリアはフードの下で、外に出ないように呟いた。
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