第16話 宝石は籠城する

 屋根から壁を伝って侵入しようとしていた使い魔だが、徹底的に制作者等の情報は消されていたものの、その目的がイアリアの存在確認だった為、まず間違いなくサルタマレンダ伯爵の仕掛けだろう、という事で、ナディネの弟子3人の意見は一致した。

 調べるために解体してしまったが、もしかしたらナディネならもう少し情報を引き出せるかもしれないという事でその、イアリアの手の平より少し大きいぐらいの虫型をした使い魔は保管する事になったのだが、問題はその後だ。


「しかしまぁよくもここまで多種多様な使い魔を寄こしてくれること。流行り廃りとは言わないけれど、多少は内容がかぶるものではないかしら」

「イアリアじゃないけど、貴族は対面ってやつがそれはそれは大事だから、こういうところ1つにも拘らないと気が済まないじゃない?」

「無駄が極まってるわね」


 形も大きさも様々な使い魔が、ひっきりなしに研究棟へと侵入するようになったのだ。ナディネの結界が緩んだ訳ではない。ナディネの結界を通る条件となる何らかの部品か魔法陣を、サルタマレンダ伯爵がばら撒いたのだ。

 貴族というのは外面と人脈の生き物。というのはイアリアの偏見だが、最新や限定という言葉に弱いのは確かだったりした。そんな貴族の間で今一番アツい話題というのが、公然の秘密となっているイアリアの事だ。

 普段はナディネの研究棟を視界に入れる事すら避けるのに、その主が不在というのもあるだろう。そこをちょっと覗き見する為の便利な物があるのであれば、大半の貴族はこぞって手を出す。


「きっちりこういうところでも小金を稼ぐあたり、本当に自称お父様だわ」

「うーん。そろそろイアリアの評価を否定できなくなってきたな」

「私は最初から事実しか言ってないわよ」


 今はジョシアとハリスで使い魔を捕獲及び無力化しつつ、イアリアが侵入を可能にしているパーツか仕掛けを探し、それを弾き出す方法を考えているところだ。

 現在でも1日に10体以上の使い魔が送り込まれているので、すっかり2人は使い魔への対処に手を取られている。イアリアも万が一取り逃がした使い魔と接触してはいけないと、仮眠室からほとんど出られていない。

 ただ、これは流石に師匠に対処してもらうべきだろう、と、リトルにナディネ宛の手紙を運んでもらっている。かなりの遠出だが、そもそもが「魔物化した魔化生金属ミスリル」という規格外に、属霊という神の眷属が憑いているのだ。恐らく、道中に関しては問題ない。


「というかこれ、師匠の帰りが遅いのも、どこかで足止めを食っているからじゃないかしら」

「何だと!?」

「あー、それはありそう。師匠が単独でここまで長く留守にするのは初めてだからなー」

「なんという事だ!!」

「ハリス兄様、うるさい」


 幸い、ナディネの指導を受けた3人にとっては、そのパーツの特定はそう難しい事ではなかった。後はそのパーツに出ている許可を取り消して、遮断できるようにすればいいだけ、なのだが。


「ねぇ。確かもう5回は許可を取り消したわよね?」

「4回までならこちらの名前を変えているんだろうと思ったけど、これはもしかして、許可者から許可が出た扱いになってるか? 流石に数が多い」

「ハリス兄様、何とかならないの」

「流石に師匠の結界に手を加える訳にはいかないだろう!? 名前で識別している部分を触ろうと思うと、下手をすれば結界自体が解除されるぞ!」


 という事で、一向に侵入してくる使い魔の数が減らない。流石にイアリアもうんざりしてきた。なお、実際に許可の取り消しをするのはハリスである。この脳筋、魔法に関しては感覚的で細かく器用な事が得意だったりした。


「ジョシア兄様がやると、研究棟自体が凍り付いてしまうでしょうし」

「いやぁすまない。せめて冷たくない氷に出来ればいいんだろうが、調節って難しいなぁ」

「魔法が一切の例外なく氷の形でしか発動できないのを何とかしたらどうなの」


 一方のジョシアは、実は魔法に関してだけは随分と力技だった。性格及び見た目と実際使う魔法の形及び種類が、取り替えたように真逆だ。

 ちなみに、この3人の中だと最も大規模なままに器用な事が出来るのはイアリアだった。……イアリアはイアリアで、大人しそうな見た目のわりに大出力の魔法をぽんぽん使いまくる為、こちらもなかなかギャップが酷いのだが。


「……ほんと、私が魔法を使えていればさっさと結界を重ね掛けているのだけど」

「魔石に魔法陣を彫り込んで、魔法代わりにするのはどうだったんだい?」

「ダメね。流石に魔石になる量じゃ出力が足りないわ。複数の魔石を連動させるとなると別で魔法陣が必要だし、流石にこの部屋で展開できる大きさじゃないのよ」


 とはいえ、現在イアリアは魔石生み、もとい、魔力を外に出すと必ず魔石になってしまう状態だ。仮眠室に閉じ籠らざるを得ない状態では、流石にそこまで大掛かりな事は実行できない。


「本当に、師匠、早く帰ってこないかしら。最悪大罪人はどうでもいいわ」

「大事な手掛かりなんだから、もうちょっと大事にしてあげなよ」


 という事で、現状ではやはり、師匠であるナディネが戻ってくるのを待つしかないのだ。

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