宝石と学園都市
第1話 宝石は目覚める
魔法を使える人間、というのは、大きく2つに分かれる。
1つは魔法使い。宿して生まれてきた魔力の分だけ、世界を自分の意思で上書きする事が出来る人間。
数日に一度小さな魔法を使うだけで数年もすればその魔力を使い切ってしまう者から、毎日のように地形を変えても老いて死ぬまで一切魔力が減る様子すら無い者まで、その魔力の量には個人による差が大きい。
そしてもう1つは、魔石生み。魔力を宿して生まれてくる点と、その魔力が尽きたらただの人になる点は魔法使いと同じ。
ただし魔石生みの場合、世界を上書きする力を自らで行使する事は出来ない。何故ならその名の通り、その魔力は石の形を取って固まるからだ。
そしてその石の形に固まった魔力――魔石を使えば魔力の有無に関わらず誰でも、魔石がある限りいくらでも、魔石に込められた魔力の分だけ世界を上書き出来る。
そしてその特性の違いにより、魔法使いは国の武器あるいは盾として召し上げられる事が多く。対して魔石生みは、人ではなく資源として見られ、扱われることがほとんどだった。
何故同じ魔力を宿した人間なのに、魔石生みの魔力は石に変わるのかは分かっていない。また、どれほど膨大な魔力を持っていても魔石生みが魔法使いになる事は無い。
だから、魔法使いであれば魔力が多い事が喜ばれ。
魔石生みであれば、魔力が少ない事を祝福される。
ただし。
――稀に、魔法使いが魔石生みに変わることは、確認されている。
「…………っ!?」
がば、と、ベッドに寝ていた人物が、唐突に体を起こした。そのまま周りを見回し、周囲にあるものを確認していく。
「な……」
そしてその場所に心当たりがあったのだろう。濃い焦げ茶色のくせっ毛が跳ね回るのはそのまま、大きく美しい翠の目を、零れそうなほどに見開いた。
その若い女性の名前は、イアリア・テレーザ・サルタマレンダ。色々と複雑な事情によって貴族令嬢となった元平民であり、6つある全ての属性に適性を見せ、底がないかのような莫大な魔力を持つ、魔法使いである。
……否。魔法使いであった、というべきだろう。何故ならイアリアはある日目を覚ましたところ、魔法使いから魔石生みへと変じていたのだから。
「どうして、この部屋に……」
イアリアの記憶では、魔石生みへと変じたその日に魔法使いを育成する為の学園から力技で脱走、アリア、という偽名で年齢も2つさばを読んで魔薬師として冒険者登録をし、主に学園から離れる方向に旅を続けていた。
その間は自らの容姿を誤魔化すために常に分厚い雨の日用のマントを纏い、フードを深く下ろしていた。魔薬という不思議な薬で若干声も変え、名目上の実家から逃れて魔力を使い切り、ただの人間に戻ろうとしていたのだ。
だが色々あった末に旅にも疲れ、冬に差し掛かるという時期なので渡りに船と、冬の間は雪のせいで外界と遮断され、陸の孤島となる田舎の町、エデュアジーニに向かったのだが……。
「……そう、そうだったわ。まさかそこであの草と遭遇して、冬ごもりの期間中あれと付き合い続け、しまいにはあれのせいでスタンピードが発生して……」
イアリアが散々に言っている「あの草」とか「あれ」とは、狂魔草という草だ。大きな葉と触れれば折れそうな細い茎、そして鈴のように連なり下を向いて咲く丸い可憐な花をもつ見た目は可愛らしい草なのだが、この草、花弁の端から根の先まで、もれなく毒を持っている危険物だった。
しかも周囲の栄養と魔力を食らいつくして土地をダメにし、更に毒で汚染して周囲の魔力を狂わせ、生態系そのものにダメージを与える最悪の植物である。しかも加工すると幻薬……中毒性の非常に高い危険な薬になるので、国からその扱いは監視されていた。
しかも周囲の魔力を狂わせるので、魔物……魔力というエネルギーによって変異した動物を増やすし、魔物を狂わせて人里へ大挙して襲い掛かる大暴走、スタンピードを引き起こす。どうしようもなく危険な植物だった。
「……で、対処で危うく死にかけたら、そこに何故か師匠が来て。そう、そうよ。問題の解決はしたでしょうけど」
師匠、とは。魔法使いを育成する教育機関であるザウスレトス魔法学園に存在する、古くからの慣習を体系化したシステムの事だ。魔法とは現実の上書きであり、感情と意識によってのみ制御される。よって、個人によって最適な方法は全く異なる。
流石に学園という場所で教員となる魔法使いも限られるので、授業という形で全てを教えることは不可能だ。なので学生は「師匠」に「弟子入り」して、個人的により自分に適した方法を探していく事になる。
そして、イアリアの「師匠」は……長らく魔法使い最強の座をほしいままにする、老いも衰えも知らぬ最高の魔法使い、「
「どういう事なの。訳が分からない。相変わらず感覚で生きているんだから、あの弟子バカ師匠……!!」
なお、その「師匠」である「
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