第8話 宝石は結果を得る

 しっかり準備をして、冒険者ギルドに顔を出し、しっかりと遭難保険にも入って広い範囲の探索をしてきたイアリア。本来の目的である小動物や珍しい植物は見つからなかったが、案の定狂魔草はうんざりするほど排除する事が出来たので、探索の成果はあったと言えるだろう。

 そしてエデュアジーニに戻り、冒険者ギルドに顔を出して遭難保険の返金を受ける。そのまま冒険者ギルドで1週間ぶりの他人の料理を食べて、長期滞在している宿の部屋へ戻った。

 さてもう今日はざっくり身体をぬぐって寝よう、と思っていたイアリアだが、流石にずらっと並んだ瓶はどうしたって視界に入る。ぽいぽいと防寒具を外した所で、とりあえず雑に確認だけはしておこう、と、一番手近にあった瓶を手に取り、物の詳細を調べる魔道具(手作り)を使った。


「…………」


 で、その結果は、というと。


「………………なんっっっで無毒化してるのよ…………っ!!」


 分からない……!! と、そのままベッドに倒れ込んだイアリア。長期の野宿と雪中探索で疲れている所に、トドメを刺された形となる。

 しばらくそのままぐったりしていたイアリアだが、何とか気を取り直して体を起こした。手に持ったままだった瓶を改めて見ると、その中に入っているのは、干し肉を削って粉にしたものだ。

 魔道具によって明らかになった情報は、その干し肉(粉)に、かなり強力な活性の効能が宿っているというものだった。当然、元となった干し肉にそんな効果は無い。


「塩漬け肉ではあるから、塩として扱われたのかしら……?」


 これを確認しなければ休めない、と、ざっと汚れをぬぐって実験用の格好に着替えたイアリアは、さっそく瓶の蓋を開けて、中に突っ込んでいた狂魔草の一部を取り出してみた。それをみると、どうやら細長く切った葉だったようだ。

 そのすっかり萎れている葉にも魔道具を使って詳細を調べてみたが、こちらも生き物の活性を引き上げる……まぁ、精力剤などによく使われる効果がある、と出る。毒の字はどこにもない。


「いえ。これはこれで、使い方によっては十分毒になるのだけど」


 しかし何故……。と思いながら、他の瓶も確認してみるイアリア。そして分かったのは、干し肉(粉)と固いパン(粉)はどの部位でも無毒化に成功したという事と、魔石を詰めていた瓶からは魔石が綺麗に消えて、こちらもこちらで、方向性の違う無毒化に成功していたという事だ。

 干し肉(粉)は活性を引き上げるか、活性を与える効果だった。一方固いパン(粉)はというと、病や毒に対する抵抗力が上がる固いパン(粉)と、再生力を上げる狂魔草の残骸となったらしい。

 そして魔石を詰めていた瓶に残っていた残骸はと言うと、こちらは食べたものに、詰めていた魔石と同じ属性の魔力を大量に回復……というか、供給する効果に変わっていた。


「どういう事なのよ…………」


 成功したのは喜ばしい。それが魔石を大量に使うものなのだからなお。しかし解せないのは、無毒化に成功した方法の共通点と、失敗した方法との違いだ。一体何が違ったのか……と、イアリアはしばらく頭を抱える。


「……まさか。狂魔草の無毒化条件は、外部の魔力から隔離する事……? いえ、違うわ。それだと粉にした食べ物で無毒化できないもの。じゃあ、何? 一定期間の密閉? いいえ、これも違うわ。だったらベゼニーカに向かう途中で、ただ瓶に入れただけの花が無毒化されている筈だもの」


 うーんうーんとしばらくの間独り言を零しながら、呻くように考えていたイアリア。だがふと、改めてカラカラに干からびた狂魔草の一部を見て、眉間にしわを寄せた。


「共通項は、密閉と、自然の魔力もしくは空気、いえ、どちらかと言うと水分かしら。水分に触れなくなる状態よね。……まさか、狂魔草って、地面から離れて切り刻まれた程度では死んでいないというの? 自然の魔力と水分に触れていれば……そのどちらかを追い出すか奪い尽くさなければ、それこそ燃やされても生きているとでも?」


 イアリアが思い出したのは、魔物についての情報だ。魔物とは、魔力と言うエネルギーによって動物が変異したものを指す。多くは元となる動物の特徴を色濃く引き継いでその能力が上昇するが、長生きしたり、変異の時に取り込んだ魔力が多かった場合は、固有魔法という形の、世界を上書きする能力を手にしている事があった。

 多くは元となった動物の種族で見分けられるそれは、厳密に言えば個体ごとに違う性能を持つ。何故なら固有魔法とは、魔物の個体がそれぞれに変異の過程で得た能力であり、似た能力ではあっても、引き継いだり教わったものではないからだ。

 そして個体に依存する能力であるがゆえに、その個体が死亡した場合は解除される事がほとんどだった。そして狂魔草の毒性は、かなりの確率で、狂魔草と言う植物が手に入れた固有魔法だ。


「呆れた。こんなに呆れたのは人生初じゃないかしら。どれだけしぶといのよ。地面から引き離されたら大人しく死んでおきなさいよ。なんなの。自然の魔力か水分のどちらかを完全に奪われなければ死なないとか、生き汚いにも程があるんじゃないの」


 ただ生きる為だけに学園を脱走し、そのまま逃走生活を続けている自分の事を完全に棚に上げ、イアリアは無毒化された……この推測が正しければようやく死んだ……狂魔草の一部に怒りをぶつける。もちろん、反応が返って来る事は無い。

 まぁしかし、もし反応があったとすれば、お前にだけは言われたくない、程度は言い返していたかもしれないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る