第11話 宝石は対処を考える

 出来れば今すぐ、遅くとも豊穣祭が行われている間にディラージを出発したくなったイアリア。その場は話半分であまり興味が無い、という印象を与えて切り抜けつつ、これからどうするべきか頭をフル回転させていた。

 とにかく、目立つ行動は厳禁ね、とイアリアは口の中で呟く。今までも出来るだけ目立たないように心掛けてはいたし、カリアリでは目立ってしまった分だけ余計に大人しくしていようとは思っていたが、それ以上に、という意味だ。

 それに加えて、人目につく場所に居る時間も減らすべきだ、と考えるイアリア。そもそも人目を避ける為に雨の日用の分厚いマントを着て、しっかりとフードも下ろしているのだが、万が一を避けようと思えば当然そうなる。


(と、なると……冒険者なら行っていてもおかしくない場所で、人目に付かない場所は……)


 問題は、そんな条件に合致する、言い換えれば都合の良い場所があるかどうかだったが……ここでイアリアは、カウンターの場所を他の冒険者に譲る形で、達成が容易であったり報酬が良かったりする依頼があらかた無くなった依頼票の群れの前へと移動した。

 イアリアは魔薬師として冒険者登録をしている。別に戦えない訳ではないが、それでも得意分野は魔薬の作成と納品だ。なので冒険者ギルドが常に募集している依頼を除き、魔薬を納品する依頼を探す。依頼があれば、魔薬の作成を理由に冒険者ギルドの2階へ籠っていられるからだ。

 だが残念な事に、ディラージではあまり魔薬の需要が無いらしい。調合に時間がかかると言い訳できる程の依頼は無かった。では、とイアリアが次に探したのは。


(採取依頼、と言っても、植物系の依頼はほとんど無いわね。……やっぱり、廃坑道の探索や採取しかないかしら)


 立地の相性が悪い、と言ってしまえばそれまでだが、イアリアが得意とする依頼はほとんど無いようだった。あっても、現在のイアリアこと、「冒険者アリア」では、冒険者ランクが足りない高難易度の依頼になってしまう。

 どうしようかしら。と、依頼票の群れを眺めながらイアリアはさらに考え……その彷徨う視線が、ふと1つの依頼票に止まった。

 それは、分類するのであれば、特定の作業を依頼するものだ。ただその内容がイアリアにとっては簡単に過ぎるものであったにも関わらず、結構な報酬が設定されていたので目を引いたのだ。


(これ、廃坑道内部にある灯りの点検って書いてあるわよね? 見間違いとかじゃなくって。受注資格がコモンレアな上に報酬が良いわ)


 廃棄されているとは言え坑道内で火を使うのは自殺行為だ。だからこういう場合の灯りとは、通常魔石を使う魔道具を差す。と言っても、魔道具の中では基本も基本なので、お値段もそう高くはない。

 内容が不可解だったので、依頼票を剥がしてカウンターに持って行くイアリア。内容が簡単で報酬が良いわりに残っている、という事は、難易度が高いか、拘束時間が長いのだろう、と踏んでの事だ。


「この依頼なのだけど。灯りの点検、だけにしては、結構報酬が良いわね?」

「あ、はいー。これはですねー。灯りの点検と書いていますが、実質坑道の調査と安全確保を行う依頼となっておりますー。冒険者の皆様も含めて利用頻度が低い坑道に対して行われるのでー、危険度が高めとなっておりますねー」

「……。あぁ、なるほど。人がほとんど入らない場所の実態調査なのね。それに加えて、灯りに異常があった場合、灯りを修理する後続の誰かの為に安全確保もしなければいけない、と」

「そういう事ですねー。その後のー、灯りを点けに行く依頼は大人気なんですけどー」

「なるほど。ありがとう」


 人が立ち入らない為どういう状況になっているか分からない場所に突っ込み、危険な状態……例えばモンスターが湧いていたり、あるいは崩落が起きていたりしたら、可能な限り対処する。確かにこれは積極的に受けたがらないだろう。時間もかかるし、危険度が未知数だ。最悪、ゴーレムの群れと鉢合わせ、なんて展開もあり得る。

 ……が。


「あまり人が行かない、とは言え、地図はあるのよね?」

「ございますよー」

「そう。あぁそれと、時間はどれだけかけても良いのよね?」

「あまりに長すぎる場合は冒険者ギルドから注意させて頂きますがー、理由がしっかりとありましたら安全を最優先にしていただければ宜しいですねー」

「大丈夫よ、毎日戻ってくるつもりだから。生存報告も兼ねて」

「それは冒険者ギルドとしても助かりますー」


 人目がほとんどない場所に、冒険者ギルドに来た依頼を受けて、1日中姿が見えなくても疑問に思われない。

 現在、割と手段を択ばず存在を薄くしておきたいイアリアとしては、もってこいな依頼だった。

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