第2話 都市に入る宝石

 鉱山都市ディラージは、ここ、エルリスト王国における、東の果てに存在する都市だ。故にそこに続く道はしっかりと石畳が敷かれ、事と次第によっては王族が通る事もある為、こまめな点検が行われている。

 だから東寄りの南端にある塩作りの街カリアリから、ちょっとした事情で結構な人数と荷物を運ぶこの馬車群も、その重量の割にはスピードを出して進むことが出来ていた。

 ディラージは東の国境でもある山脈に接する形の都市であり、その山脈から採れる鉱物資源を加工する事に長けている。もちろん国境を守るという役目もある為、賑やかに騒々しい中にも常に一定の緊張を忘れない、独特の空気の都市だ。


「ん? カリアリから? ……魔力探知の一旦停止要請?」

「忙しい時期なのは分かるが、だからこそ無用な騒ぎは起こしたくないだろ?」

「ふむ。……あぁ、例の護送か。確かにな。ちょっと待て」


 だからこそ都市への出入りに関しては、他の場所以上に厳重だった。何しろ関係は悪くないとはいえ、隣国と接している場所だ。何があっても不思議ではない。

 特に人間の中における魔力の変異、個人による差が大きいとはいえ、現実を自分の意思で上書きする権利を持つ魔法使いへの対策は、特に厳重に行われている。それは主に、魔力と言うエネルギーを探知する事で行われていた。

 だが、未だ詳しい事が分かっていない魔力というものを扱うのは大変難しい。具体的には、魔法使いであろうが、魔石生みであろうが、果ては単なる魔石の山や強力な魔道具であっても「魔力がある」という一点で魔力を探知する機構が反応してしまうのだ。


「よし、急いで通ってくれ」

「あぁ、ありがとう」


 それ故に、魔力がある何かを運ぶ際には、その探知機を一時的に停止させることが常となっていた。もちろん停止させる時間はごく僅かだが、それでも正当な理由を持って通る集団を確実に通す程度には時間がある。

 だからこそ門番は探知機を止めている間は、いつも以上に通行する集団に目を光らせる……のが本来の姿なのだが、今回ばかりは、門番も僅かな憐れみが混じった視線を、メインとなる「荷物」に向けていた。

 それは外からのみ鍵が掛けられるようになっている、酷く丈夫で特殊な馬車だった。馬車自体が特別性であるそれは、特殊な人間を運ぶためのものだ。


「……「護送」か。可哀想に……」


 それは、魔力を持った人間……それも、魔法使いから魔石生みへ変化した人間を運ぶための馬車だった。魔力が外に伝わらないように加工された馬車に乗せられた人間の末路は、口の中で門番が呟いてしまう程度には暗い。

 だからという訳では無いだろうが、半ば馬車の陰に隠れるようにして、それでもちゃんと冒険者カードを提示して通り抜けていった1人の冒険者へ向いた注意は、本当に最低限のものだった。

 ……普段なら確実に止められるであろう、晴れている日中にも関わらず、雨の日用の分厚いマントに全身を包み、そのフードをしっかりと下ろしているその姿を。


(良かったわ。無事に通り抜けられて)


 自分の見た目が十二分に怪しい事を自覚しているイアリアは、見た目には出さないよう細心の注意を払いながら、安堵の息を吐いた。そもそも、ディラージへ入る事自体が現在のイアリアにとっては大変危険だ。

 何せ魔力をどこかで感知されてしまえば、その行く末は元神官長マッテオと同様である。それが嫌で国の果てまで逃げてきたのに、ここで捕まってしまえば今までの苦労が水の泡だ。

 まず第一段階、ディラージに入る事は上手くいった。そして次の問題は。


(……どうやって出ようかしら。流石にこの街で一生暮らすという訳にもいかないのだし)


 この鉱山都市ディラージは、当然ながら外に出る時にも魔力の探知機に晒される。むしろ害意を持った魔法使いを逃さない為に、外に出る場合の方が厳しいだろう。それを、どうやって誤魔化すか、という事だ。

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