都市鉱山と宝石

第1話 人間に戻りたい宝石

 この世界には、魔力と言う不思議な力が存在している。

 一部の教義においては神からもたらされた福音であるとされていたりするが、少なくとも人間と言うものが国を作った辺りでは既に存在していて、その時から研究されているにも関わらず、その正体は不明だ。

 その源泉が何処か分からないまま使われている魔力だが、大体の場合その供給元は生まれつき魔力を宿して生まれ、魔法と言う不思議を扱える人間を含む生き物である、と、されている。



 その魔力を宿して魔法を使う人間、というのは、大きく2つに分かれていた。

 1つは魔法使い。宿して生まれてきた魔力の分だけ、世界を自分の意思で上書きする事が出来る人間。

 そしてもう1つは、魔石生み。その魔力は石の形を取って固まる為、そのままの状態で世界を上書きする事は出来ない。



 そしてその石の形に固まった魔力――魔石を使えば魔力の有無に関わらず誰でも、魔石がある限りいくらでも、魔石に込められた魔力の分だけ世界を上書き出来る。

 よって、魔法使いは国の武器あるいは盾として召し上げられることが多く、魔石生みは人間どころか生き物ですらない「資源」として扱われる事がほとんどだった。

 今の所、魔力について分かっている事は少ない。その少ない内容は、魔石生みの魔力は例外なく魔石へと変じる為、世界を上書きすることは出来ない事と、保持する魔力の量に関わらず、魔石生みが魔法使いになる事は無い事。



 後は。

 極稀にだが……魔法使いが魔石生みに、変じる事だ。




「ディラージが見えたぞ!」


 集団の中心となる特別な馬車の、御者を務める冒険者ギルドの職員が背後へとかけた声に、わっ、と短く歓迎の声が上がった。

 後に続く馬車の御者席やその周囲、或いは荷台にかけられた防水布の上から声を上げた荒くれ者の集団……冒険者達の中に、声も上げず、良い晴れの日であるにもかかわらず雨の日用の分厚いマントに身を包み、フードをしっかり下ろした、非常に怪しい人物が混ざっていた。

 あまり興味無さそうに欠伸をかみ殺しているその人物は、アリアという名前の冒険者であり、冒険者ならば1つ得れば将来が保証されるも同然の、冒険者カードへ埋め込まれる宝石を2つも手にした、非常に有能な冒険者にして、凄腕のフリー魔薬師である。

 その本名は、イアリア・テレーザ・サルタマレンダ。登録した年より2つ上の17歳であり、本来であれば伯爵令嬢である筈の農村出身な元平民。濃い焦げ茶色のくせっ毛をフードに押し込め、フードの影の下に隠した大きく美しい翠の目でテンションを上げる他の冒険者達を見る彼女は、魔石生みへと変じた元魔法使いだった。


「鉱山都市ディラージ……。はぁ。用事がこうでなければもっと素直に喜べたのだけど」


 そして魔石生みに変わったその日に魔法使いを育成する為の学園から力技で逃亡、その後とある田舎町を救ったり結構規模のある盗賊団を壊滅させたりした末に、何の因果か自分と同じく魔石生みへと変じた元魔法使いを護送する依頼を受けている。

 どうしてかと言えば、主にその元魔法使いが、魔石生みになった事を隠す為にやらかした色々にイアリアが関わったせいなのだが……生まれ持った底なしの様な魔力を使い切ることを目標として、名目上の実家及び世間一般で言う名声から逃げ続けている、逃亡者でもある彼女は、何重もの意味で憂鬱なため息をつくしかないのだった。

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