第24話 宝石は再び転がっていく

 その後、冒険者からの依頼達成報告を受けて動いた冒険者ギルドにより、あの青い巨大な魚が、過剰に水属性の魔力を食べたことにより変質を起こしたグラウンドウォーター・カープである事が確定した。

 起こった変質とは、その身を食べた際に与えられる魔力が、必ず水の属性になる事と、一度に得られる魔力量が多い事。そして今回の件で、この魚は無制限に成長する事と、マナの木と同様、魔力さえあればいくらでも無茶な再生が出来る事が判明した。

 この報告を聞いた国の上層部が、グラウンドウォーター・カープを飼う事で任意の属性に適性を持つ魔法使いを、いくらでも生み出せる。……という夢を見て、結局頓挫するのだが、それはまた別の話だ。


「護送依頼?」

「はい! 是非ともアリア様に受けて頂きたいのですが!」


 緊急依頼の(半ば強制的な)受注、及び達成から、数日後。そろそろこの町を出ようか、と、並んでいる依頼を確認していると、イアリアは冒険者ギルドの女性職員に、そう声を掛けられた。

 話を聞いてみると、どうやら海に起こっていたあの異常は神官長、否、「元」神官長のマッテオが、その魔力を減らす為に、魔石を作っては海へと大量投入していたせいだったらしい。

 あの巨大魚が神殿に来てからは……どうやらイアリアも見つけた、あの明らかに空間異常が起こっていた穴から釣り上げたらしい。それを誤魔化す為か、それとなく住民へ、森には近づかないように触れ回っていたそうだ……巨大魚に魔石を食わせて、そして膨れ上がる身を他の神官や、様々に理由を付けて引き取った子供達へと与えていたようだ。


「…………色んな意味で、何重にもやらかしまくってるじゃない。よく今まで隠し通せていたわね」

「田舎における、信頼による社会的地位って奴は強いですからね」


 そんな調子なので、カリアリ内では扱いきれない。なので、より強い権限を持つ司法機関が存在する街へと移送する事になった、との事。そして貴族を裁く事が出来る程の権限を持つ司法機関、となると、これまた随分と限られる。

 まず第一に、最高権力者である王が居る、この国の中央やや西寄りに存在する王都。そして北西の端に位置する、緊張状態にある隣国と接し、環境的にも厳しい為、大きな権限が与えられている城塞都市。

 これらを何故先に上げたかと言うと、遠すぎて論外だからだ。つまり、選択肢は最初から、1つしかない。


「東の果て、山脈という名の国境と接する、鉱山都市……ディラージね」

「はい! 期間は余裕を持って1ヶ月半、このまま良い気候が続くなら1ヶ月ほどで到着できる予定です!」


 西の端よりはまだ環境も緊張状態もマシだが、それでも国境に接しているので厳重に守られている、国境である山脈から採れる鉱物を加工する事に長けた街だ。同じ都市と名がついているが、カリアリどころかベゼニーカよりずっと規模は大きい。

 当然国境付近と言う事で、魔力に関する監視は厳しい。無策で近付けば捕まるだけだと、イアリアが自分で向かう先としては却下していた場所だ。そこに、元神官長のマッテオを護送する依頼があるのだという。

 もちろん、イアリアに話が回ってきたのは、当のマッテオを魔法使いから魔石生みに変わったと見破った事と、魔法使いの子供達を発見し、その警戒を解き、結果的に保護した、という、紛れもない当事者だからだろう。


「え? リチャード様が、魔法使いの出現で瓦解しかけた冒険者達を立ち直らせたって聞いてますよ? 移動の時のサポートも文句なしだったとか」

「そっちなの?」

「はい。と言うか、アリア様に依頼が回ってきたのはリチャード様からの推薦というか、希望があっての事ですから!」


 なおリチャードとは、あの指揮権を預かっていた暫定リーダーの冒険者だ。どうやら護送依頼の主体はあちららしい。とは言え話を聞く限り、現在カリアリに居る中では最も冒険者ランクが高いのだから、至極妥当なのだが。

 さて問題は、この護送依頼を受けるかどうか、なのだが。


「ところで、2つほど聞きたいのだけど」

「何でしょうか?」

「まず、冒険者ギルドの裏手に、やたらと荷物が用意されているようなのだけど、あれは何か聞いていいかしら?」

「実は元神官長が、使い魔を使って海の中を探りまわって、かなりのお宝を溜め込んでたようなんです。迷惑料として接収した分なんですけど、証拠として提出しないといけないとか言われまして!」

「ちょっとやけくそね」

「だってせっかくの臨時収入で久しぶりに冒険者ギルドの建物を新しくできるかと思ったんですよ!?」

「本音が出たわね」


 第一に、そういう事情もあるので危険度が高い。ひいては、報酬が非常に良い。重要な依頼である事は間違いないので、冒険者ランクを上げる為の評価にも大幅プラスだろう。

 流石に重要人物の護送という事で、可能な限りの最大戦力を揃える為に、通常と比較すれば危険度が低めとなる。つまり、通常の冒険者としては大変とお得な依頼なのだ。


「もう1つ。……何か、増えてるんだけど」

「今回の件におけるアリア様の貢献度を考えれば、至極妥当かと!」

「…………そう」


 第二に、例の緊急依頼の達成報告を終えて確認した自身の……「冒険者アリア」の冒険者カード。その端に埋め込まれた宝石が、いつの間にか2つになっていた事だ。改めて確認を取ってみたが、やはりちょっと活躍し過ぎたらしい。

 透き通った水色の宝石は美しいが、だからこそ、カリアリに滞在を続けるという選択肢は無くなった。出来るだけ早く、出来るだけ痕跡が追いにくい場所へと移動しなければならない。その必要が出来てしまった。


「今から向かえば、到着する頃には鉱山都市の豊穣祭の真っ最中ですからね! そういう意味でも良い旅になるかと!」


 女性職員の熱心なお勧めはともかく。第三に、今回の依頼が護送である、という事が、イアリアとしては地味にポイントだった。なにせ護送対象は、魔石生みへと変わった元魔法使いだ。そうであるなら……合法的に、魔力のチェックを、すり抜けられる。

 魔力が引っ掛かっても、それは護送対象の物だと言い張れるのだ。「冒険者アリア」は平民の出であり、魔力があるなら魔薬師など目指さないというのが通常の認識である。

 だから、最後にして最大の懸念であった、魔力に対する探知への対策が、これ以上なく万全に出来た状態なのだ。そして恐らく、こんなチャンスは、もう2度とこない。


「…………そうね。鉱山都市には一度行ってみたかったし、ある意味良い機会かしら」


 8割がたは本音である呟きを零し、イアリアはその護送依頼を受ける事にしたのだった。

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