第20話 宝石は扉を開ける
今回イアリアを含む冒険者達が受けた、冒険者ギルドカリアリ支部の支部長から発行された緊急依頼は、正確に言えば「水霊獣を祀る神殿内部の制圧、及び、関係者の捕縛」だ。
強制捜査と言っても、もちろん冒険者達に難しい話が分かる訳が無いし、組織同士のやり取りともなれば、迂闊に外に漏らしてはいけない内容も多く含まれるからだ。
なので冒険者達の依頼は神殿に辿り着き、中に居る神官を捕まえるか無力化して、その旨を冒険者ギルドに報告すれば仕事は終わりである。もちろん、あちらが素直に門を開けてくれればそれで済む話なのだが。
「まぁ出てくる訳ないわよね。ここまでやらかしたのだから」
その後も散発的に水の塊は飛んできたが、冒険者達が避けるまでも無く、全てイアリアが迎撃していた。使い魔の群れへの対処も十分に慣れて来ていたし、結果として、そこから1時間もせずに神殿へと辿り着く事が出来たのだ。
もっとも、水霊獣を祀る一際大きな神殿は現在、その大きな門を固く閉ざし、数ある窓を全て塞ぎ、全力で来客を拒絶する状態になっているのだが。
一応、道中で冒険者達の指揮を預かる事になった冒険者が声をかけているが、反応は無いようだ。……まぁ、反応する訳が無いか、と、イアリアは内心で呟く。
「……半分以上自滅の様な気がするけれど」
「水霊獣の使い」騒ぎに、海が河を逆流するという異変、冒険者ギルドへの営業妨害と、冒険者への風評被害。確定はしていないものの、これだけ積み上がれば割と十分罪としては重い。
なのにその上、国に報告する事なく魔法使いを手元に置いていたという罪まで追加されている。しかもこちらは、その人数に比例して罰が重くなっていく決まりだ。
故に現状、その辺りも教育によって学んでいたイアリアが考えるだけで、その総合して犯した罪と、それに見合った罰は、と言うと……。
(極刑でなければ温情……と言ったところね。あの魔法使いも、恐らく最低3人はいるでしょうし)
何と言うか、犯した罪の割に成果が渋い。というよりそもそも、その犯した罪というのも微妙な所だ。何せ、実際に何をどうやった結果あの異常が起こったのかは分かっていないし、その動機も全く不明なのだから。
そしてその原因と動機を知る為のこの強制捜査なので、つまりは仕事を終わらせれば全てが分かる……筈、という事だ。と、イアリアの思考が一周して戻って来たところに、声をかけていた冒険者が戻って来た。
「警告はしたが返事は無い。野郎ども、突入準備だ! 魔薬師の嬢ちゃん、派手に頼むぜ!」
おう!!! と野太い声と共に冒険者達が武器を構える。イアリアも、はーい、と控えめな返事をして、冒険者達の固まっている場所を横に避けるようにして、大きく水霊獣の印が彫り込まれた扉の前に移動した。
そこに、ごそごそと内部空間拡張機能付きの鞄――マジックバッグから取り出した、取っ手を付ければジョッキに使えそうな大きさの樽を取り出して、扉のきっちり中央、扉が合わさる場所において、扉から見て斜め方向へと離れる。
「それじゃあ、いくわよ」
そしてその小さな樽……いつか、山1つを改造した砦、それを原形も残さず崩壊させた時に使った、超強力な爆発を起こす魔薬が入ったそれを設置して、イアリアは準備完了した冒険者達に声をかける。
十分な距離を取っているものの、大きな扉の正面に当たる場所で冒険者達が突撃準備を整えているのを確認し、イアリアはフードに顔を、マントに全身を隠したまま、気合の入った声が返ったのに合わせ。
その見た目は小さな樽に、自分も十分な距離を開けてから爆発する小瓶を投げつけた。
――――ドッッッカァアアアアアアアンン!!
「おっしゃいくぞぉ!!」
爆発する物に爆発する物をぶつけるのだから、当然、爆発が起こる。ましてイアリアが使ったのは、いつもの何倍もの威力がある魔石をたっぷり使った魔薬だ。樽の大きさこそ小さいが、普段の物であれば、それこそ子供ぐらいなら余裕を持って入れる大きさの樽に匹敵ぐらいの威力がある。
いくら大きく分厚いと言っても、木でできた扉が耐えられる訳も無い。もちろん大きいだけの価値はあるのだが、街の中で出た被害は冒険者ギルドが全額補填する、という条件があるからこその荒業だ。
恐らく内側にかけてあっただろう閂ごと扉を吹き飛ばし、開いた入り口から、冒険者達が雪崩れ込んでいく。それを、道を譲る形でイアリアは見送って。
「さて。それじゃ私は、あの野良魔法使いが使っていた隠し通路を探そうかしら」
中にも戦いを目的とした使い魔が待っていたのか、怒号を始めとした戦闘の音が聞こえてくるのをスルーして、神殿を回り込むように移動を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます