第12話 宝石はアジト跡を探る

 普段の倍ほどの時間をかけて辿り着いた盗賊のアジトだった場所は、すっかりと土砂に覆われた災害地の様相を呈していた。いくら盗賊で非合法の中に生きていると言ったって、人間は人間だ。そして人間は、夜眠るものである。

 それでなくとも魔物と言う危険が存在するのだから、万が一に備えた見張りならともかく、こんな動くものなどほとんどいない深夜に起きている人間はそういない。

 イアリアは降り注ぐ月光から逃げるようにして出来るだけ影になっている部分を選び、耳を澄ませる。周囲に動くものは無く、先程の爆発で周囲から獣の類は残らず逃げ出してしまったのか、耳に痛いほどの静寂がそこにはあった。


「(それに、流石にあれだけやらかせばベゼニーカの方にも動きがあるでしょうし……)」


 いくら距離があると言ったって、直線であれば半日かからない距離だ。仕掛け方によっては丘ぐらいなら吹き飛ばせる程の爆発が起きれば、当然それは真面目に警戒している守役騎士に気付かれるだろう。

 当初の予定では、そうやってベゼニーカの治安戦力に異常を知らせる事は「保険」だった。もし思った以上にアジトという名の要塞が頑丈だったり、別動隊が居て素早く合流したりして手が出せない状態になっても、朝まで粘れば大きな戦力がやってくるという「保険」である。

 ……実際の所は、移動と様子見で、無事な生き残りが居るならまず間違いなく姿を現しているだけの時間が経過しても、物音1つしないのだが。


「(……うん。やり過ぎたわね)」


 一応言い訳するのであれば、イアリアはこの爆薬を作るのはこれが初めてであり、かつ、魔石をこれだけ潤沢に使った事も無かったのだ。魔石というのは貴重品に属する為、授業でもそこまで採算度外視な作り方は習わない。

 とはいえ、やり過ぎた現実が変わる訳ではない。今回の事はしっかり記憶して反省しよう、と決めて、そろそろとイアリアは土砂災害が起きたような形の元アジトへと踏み込んでいく。

 もちろん大半は山の上部にあった土に埋まっているし、最初の爆発で構造が破壊されたせいで部屋らしい部屋は残っていない。しかしそれでもイアリアは慎重に、その残骸と言えるアジトを探索していった。


「……良かった。壊れずに残ってるわ」


 そしてそこそこ時間をかけた末に、恐らくアジトという名の要塞が健在であればほぼ中央に位置していただろう場所から、とあるものを見つけた。周囲をきょろきょろと見回して土から掘り出したそれは、非常に頑丈そうな鉄の箱だ。

 一目で難解と分かる鍵が掛けられたそれは、中身が詰まっているにしては軽く、けれど見た目相応にはずしりと重い。一般的には金庫と呼ばれるそれを、イアリアは内部空間拡張能力付きの鞄マジックバッグへと突っ込んだ。

 そのままその周囲の土を掘り返し、硬貨が詰め込まれた布袋や裸の宝石が詰め込まれた箱などを見つけては回収していく。中には立派なアクセサリもあったのだが、それには手を付けず放置した。


「(最初は銀貨が1袋もあれば良い方かと思ってたけど、予想外の規模を見て期待してみて良かったわ)」


 盗賊というのは、基本的に野の獣と扱いが等しい。生け捕りにすれば法治機関から賞金が出るが、余程の大物でも無ければ手間と釣り合わない。だから大半はその場で殺害されるし、主のいなくなった拠点を荒らした所で罪には問われない。

 基本的に健全な流通に参加する事が出来ない盗賊達は、大多数が生きる為に強奪と言う犯罪行為を行う。だから食料や水と言ったものの調達はその場で行われ、同じタイミングで奪う金品の使い道は殆ど無いと言っていい。

 で、使い道は無いのにどうして奪うかと言えば、飢えた人間と言うのは本能的に貯蓄する事を求めるものだからだ。それは基本的には食糧である筈なのだが、人間である故に貴重品の価値は知っている。だから溜め込むのだ。使い道も無いのに。


「(だから盗賊のアジトにお宝が溜め込まれているのは常識。むしろそれがメイン報酬だから、盗賊専門の冒険者とかも居るって話よね)」


 という訳で、折角商都に来たのだし、貴重な素材が手に入りそうだから、軍資金が欲しいわね。と、ちょっと小金を稼ぐ感覚で最初に襲撃してきた盗賊達の髪とひげを手に入れたイアリア。それがここまで本気を出すことになったのは、完全に予想外だ。

 金庫があった位置を中心に、恐らくはお宝が溜め込まれていた部屋と思しき範囲を探り終わったイアリア。思った以上の収穫に、フードの下で思わずにっこりだ。

 が。手は抜かない、とばかり、木でできた小さなハンドベルのような物を取り出すイアリア。もちろん魔道具であるそれの舌にあたる部分に黄色い魔石をはめ込み、下方向へ振り抜くように鳴らす。


「(これだけの規模なんだから、お宝も何か所かに分けてる可能性があるのよね……と思ったら、やっぱりだわ)」


 コーン……、と、木の板同士を打ち合わせたような低い音が響く。その波紋が広がっていた先で、イアリアが放置したアクセサリが光り、取りこぼした銀貨が光り、そして離れた所で、2ヵ所程塊で光る場所があった。

 見れば分かる通り、通常は失せ物探しに使う魔道具だ。使い手が探したいものをイメージしながら使うと、音に反応して数秒の間該当する物が光るという効果である。

 今回イアリアは「貴重品」をイメージして使ったので、他にお宝が保管された部屋があった場所に反応があった、という訳だ。


「(証拠隠滅まで含めると、あんまり時間は無いわよね。急ぎましょう)」


 もちろん、そこまでやっても一切何の動きや音も無いから出来る事なのだが。

 この全力極まる対盗賊の準備が、割とシャレにならない出費だったイアリア。それに見合うだけの収入が無いとやっていられないし、流石に二度やる気は無い。

 ので、この機会に最大限回収できるものはしておこうと、魔道具に反応して光った場所へ移動し、土を掘り返して、換金しやすく足がつく可能性が低い貴重品を回収するのだった。

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