第10話 宝石は冒険者の話を聞く
翌日。
「……これは何事かしら」
のんびりと朝寝をして、昨日買ったパンと串焼き肉を軽く焼き直して遅い朝食を食べ、日もそれなりに高くなってから宿を出たイアリア。今日も魔薬を作る為にまず癒草の採取に向かおうとしたところで、大通りに出る道の前で冒険者と思われる男達がたむろしている事に気が付いた。
どうやらほとんど同時に男達も気づいたようで、獲物を見つけたとばかりに駆け寄ってきて、現在イアリアは囲まれている。正直、マントの下に隠した手で大爆発を起こす小瓶を取り出す程度に威圧感があった。
魔法が使えればこんな自爆をしなくてもいいのに……と内心で歯噛みしながら、様子見にと口に出したのが先程の言葉と言う訳だ。その言葉に、むさくるしい男達はその顔を更に険しくさせ、
「「「兄貴を助けて頂き、ありがとうござっした!!!」」」
そのまま、ガバ、と頭を下げて来た。流石にイアリアも、は? と思考が止まる。
頭を下げたままやたらと大声で続けられた内容によれば、どうやら彼らはあの瀕死の重傷を負った大男が率いる冒険者の集団、クランに所属している冒険者らしく、あの大怪我は彼らをあの大男が庇った結果だったらしい。
何故か最近魔薬の効果が随分と弱くなった為に拠点を移すことも考えていたところにあの大怪我。助かる目などありはしないと思っていたところで、イアリアが現れて命を救って見せた。だからそのことを大変感謝している、という事のようだ。
「なんで、俺らの力が必要な時はいつでも声かけてくだせぇ!」
「これでも力ならそれなりに自信あるんで!」
「この町にもそれなりなら詳しいですぜ!」
どうやら大変な恩義を感じてくれているらしい。見た目が怖いだけで。
と、判断したイアリアはマントの下で小瓶から手を離し、気になっていたことを聞いてみる事にした。
「それなら1ついいかしら。癒草の納品と言うのは、主に誰がやっているの?」
「へい? そりゃもちろん新米たちでさ」
「うちのクランでも定期的に納品してるから足りないってこたない筈で」
「味が良くなったのは良いが、効かないんじゃ薬としちゃなぁ」
「そう。じゃあもう1つ聞くけれど。……その新米たち、癒草と味草の区別はついているの?」
続いたイアリアの問いに、何故か「「「?」」」と揃って分かって無い顔をした冒険者達。まさか、とフードの下に隠した顔を引きつらせ、イアリアは続けた。
「いい? 癒草というのは、葉っぱが同じ高さに、2枚、開くようにして、高さ違いで生えている草の事を言うのよ。同じ高さに、3枚、開いているのは、味草といって、美味しいだけの違う草よ。同じように魔薬にはできるけど、出来上がるのはただの美味しい水だわ」
「「「えぇっっ!!??」」」
「…………本気で知らなかったのね」
思った以上に大きな反応が返ってきて、イアリアはため息をかみ殺した。どうやら本気で知らなかったらしい冒険者達は、血の気が引く音が聞こえそうな勢いで顔色を悪くしている。
……その口から「葉っぱが多いからたくさんとれるって」「葉っぱだけなら一緒だって」とかなんとか零れているが、どういう事だ、と内心イアリアは首を傾げた。
まるで、「誰かが味草を癒草の型違いだと教えた」ようにも受け取れるが、イアリアがそこをつつく前に、再び冒険者達はガバッと頭を下げた。
「すんません、ちょっと俺ら用を思い出して!」
「何か手が必要ならいつでも手伝うんで!」
「そんじゃ魔薬師さんも気ぃ付けて! 最近森の様子がおかしいんで!」
そのまま、バタバタと大通りの方へと走り去っていった。イアリアが止める間もなく姿が見えなくなる。
結局何だったの……と思わず呟いたイアリアだったが、その最後にくっ付いていた言葉に首を傾げた。
「……森の様子がおかしい?」
数日前にこの町に来たばかりのイアリアに実感は無いし、町の中で暮らしている人々にこれといって緊張や警戒の様子は無かった。が、自称町に詳しい冒険者が言うならおかしいのだろう。
そしてその「森の様子がおかしい」事が、兄貴と呼ばれていた大男の負傷に繋がっているのだとすると……思い出されるのは、町に来る前に聞きかじった噂だ。
それは農村や商人の、魔物による被害が増えているという事。つまり、魔物の活動が活発になっている可能性が高いという事。これらが全て繋がっている、とするなら……。
「周囲一帯の魔物の行動が、まとめて変化している事になるわね。……確かに、何か森の奥で変化が起こっていたとしてもおかしくはないわ」
とは言え。
学園所属の魔法使いイアリアであればこっそりと広域探査魔法を放って調べるぐらいはしたかもしれないが、此処に居るのは実家から逃亡中の魔石生みイアリアだ。もっと言えば、農村出身の新米冒険者兼魔薬師アリアである。
「(まぁ私にはどうにも出来ないわね。魔薬を作って納品すれば、他の冒険者達がたぶんどうにかするわよ)」
そう考えに区切りをつけて、イアリアは町の外に出るべく、大通りから南の門を目指して移動するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます