第82話 え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?

 「お待たせ美也。ごめん、待たせちゃって」

  

 「ううん!待ってないよ。こっちこそ急に呼び出しちゃってごめんね」


 美也は学校の屋上のベンチに座っていた。


 俺、結愛、美也、千恵美が話し合いを重ねた憩いの場所。

 そして、凛および高井と決戦を繰り広げた地。


 今は穏やかな空気が流れ込み、日は暖かく、静けさに満ちている。

 春はもうすぐそこだ。


 卒業式の準備で忙しいのか、学生たちの姿も見えない。


 「ジュースかコーヒー、どっちがいい?」


 「ありがとう!じゃあ、ジュースで!」


 買ってきた飲み物2つの内1つを美也に手渡し、ベンチの隣に座った。

 美也は勢いよく缶を開け、少し中身が溢れるのも気にせず、ごくごくと飲み干していく。


 「うーん!おいしー!さすが円二さんだねー!」


 花のような笑顔を浮かべる美也を見て、俺もコーヒーを飲み干した。


 甘くてほろ苦い微糖。 

 美也ほどではないが、喉に少しずつ流しこむ。


 「…思ったより苦いな」


 「えへへ。大人の味なんだね」


 「ああ。もう、卒業だしな」


 「…そうだね」




 美也は少し俯き、ジュースの間をじっと見つめた。


 沈黙が流れる。 

 そよ風の音。


 静謐な空間の中で、2人。


 2人。

 

 


 …2人。

 何も始まらない。


 「えーと…」


 沈黙に耐えかねた俺が口を開こうとした時ー、

 



 「…りがと」


 「え?」


 「その…あの…えっとぉ…」


 美也は口ごもり始めた。

 口をぱくぱくと開け、喉をごくりと鳴らし、ポニーテールを落ち着きなく触る。


 そしてー、




 「ききききキスしてくれて…ありがと!!」


 俺に伝えたかった言葉を叫んだ。


 

 ****


 

 「き、キス?」


 「そ、そう!覚えてるでしょ!学園祭の時にしてくれたキス!」


 美也の顔は真っ赤に染まっていた。


 丸い瞳を潤ませ、息も上がっている。


 「あの時、美也すっごく嬉しかったの!もう振られちゃってるって知ってても、協力してくれたお礼だとしても、円二さんとキスできて…すごい嬉しかった!」


 「お、おい。あんまり大きい声で叫ぶとだな…」


 「ありがとーーー円二さーーーん!美也嬉しかったよーー!!!一生の思い出にするねーーー!!」


 ついには屋上から見える運動場に向かって叫び出す。

 下に誰かいたら丸聞こえだ。


 「ストーップ!わ、分かったから!それだけ感謝してくれて俺も嬉しいよ!だから…」


 「本当に本当にありがとーーー!!!それだけが言いたかったのーーー!!!」


 美也は俺に対する感謝の言葉を叫び続ける。

 

 何度も。

 愛おしさをにじませながら。







 「美也の青春…本当に楽しかったーーーーーー!!!」


 力の限り。



 ****



 「ごめんなさいっ!ちょっとだけ言うつもりだったのに、思いが止まらなくて〜〜〜!」


 数分後。

 あたふたじたばたしながら、美也は謝罪した。


 もちろん美也の言葉に嘘はない。


 彼女は常に純真で、常に本気だ。

 分かっているからこそ、ちくりと心にトゲが刺さった。


 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 俺は、結愛以外の女性の心に、消えない痛みを与えてしまったかもしれない。


 「いや、いいんだ。俺も、嬉しかった。そこまで喜んでくれて…」


 「本当!?えへへ〜〜〜、申し訳なさと一緒に幸福感が溢れちゃうな〜〜〜また叫んでいい?」


 「それはだめ!俺が恥ずかしかさと申し訳なさで死にそうになる!」


 「もう、仕方ないなぁ」


 あはは、と笑いながら、美也はポリポリと頭をかく。

 スカートの裾を握り、俺に振り向いた。


 「でも、この気持ちはほんとだよ…ほんとに、ほんと…」


 「…」


 「美也…一生、誰とも付き合わないから。ずっとこの気持ちを抱えて、おばあちゃんになるまで生きていくから…」


 「美也…」


 「言いたかったのは、それだけ。卒業したら、会えなくなるかもしれないから、言いたかったの…」


 ポニーテールをくるりと翻し、美也は去っていこうとする。


 「さ、帰ろ!結愛ちゃんもきっと、円二さんを探してるから」


 俺はその後ろ姿を見て、思わず手を伸ばし、声をあげた。


 「美也!」


 「…え?」


 うっすらと涙を流した長身の美少女は振り返りー、


 


 「円二くん!!!」


 バタン。


 新たな登場人物。

 太陽に煌めく短髪にボーイッシュな容姿。


 「ち、千恵美!?」


 「原田さん!?」


 「円二くんがここにいるって聞いたから来たよ!」


 「お、おう。確かにここにいるけど…何の用だ?」


 「他でもない…ぼくと円二君にとって重要な話さ」


 髪をふっとかきあげ、千恵美はカッコよく宣言する。




 「すなわち…ぼくとキスをして永遠の誓いを結んだ時の話さ!」


 一瞬の沈黙。

 そよ風が吹きー、




 「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


 美也は再び大声を上げる。




 「結愛さんだけじゃなく原田さんとも付き合ってるなんて…浮気もの〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


 面倒なことになった。



  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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