第81話 うん…!

 「いよいよ学生生活も終わりかぁ…」


 「ぐすっ…私たち、いつまでも友達でいようね」


 「卒業式終わったら早速ビール飲みに行こうぜ〜〜〜w」


 「ばっか、まだ早いだろ。アルコールは20歳になってからだよ」


 「はーいみんな!卒業ソングをもう一回練習するわよ!」


 謹慎に関する長々とした説教を終えて教室に戻ると、卒業式の準備が慌ただしく行われていた。

 

 当日のスケジュールの確認。

 飾り付けの準備。

 卒業ソングの合唱。


 多くの学生が嬉しさ半分、悲しさ半分といったところだ。

 人生で数度しかない旅立ちの日を迎え、いろいろな気持ちを抱えながら、さまざまな進路へと巣立っていく。


 俺は…ほっとしていると言うところだろう。

 卒業式を無事に迎えられるかどうかも分からなかったからだ。


 今後の進路ははっきりとは決まってないが、なんとかなるさ。


 このように、卒業シーズン真っ最中であることを除けば平穏な教室なのだが、1つだけ通常とは異なる点がある。


 


 教室の片隅に空席がある点だ。


 残念ながら、卒業式を迎えることは叶わない人物の席。




 傷害事件含むさまざまな犯罪で逮捕された静谷凛だ。



 ****



 「…全て認めます。私が…私が全てやりました。円二君の愛を得るために…それが正しいことだと信じていました…」


 裁判所に出廷した時、かつての幼馴染はしおらしくなっていた。


 黒い髪はストレスのためか真っ白になっている。

 憎しみや怒りに満ちた表情は生気がなく、虚なものになっていた。

 腕を骨折してギブスをはめており、窮屈そうに座っている。


 「あなたは、高井容疑者と共謀して、丸山円二ならびに丸山結愛さんの殺害を図った。この起訴事実を認めるということですね?」


 検察官からの質問にも、俯きながら答える。

 そこに今までの凛の姿はなかった。


 「はい…最初からそのつもりはありませんでしたが、円二君が裏切った時に備えたプランBとして用意していました。プランCは不意打ちプラン、プランDは…」


 「あ、その辺はいいです。では、小学生の時から、クラスメイトにお金を渡して『ともだち』をさせていたというのも?」


 「はい…パパとママが残した遺産100億円を使って、全部やりました。それが、私の、円二君に対する愛情表現だと、信じてました…」


 凛のスマホは逮捕後に没収された。

 スマホからでしかアクセスできない隠し口座の存在も露呈。


 警察によって調査が行われた結果、凛の両親が脱税を含む各種違法行為や犯罪でため込んでいたものと発覚した。


 そしてー、




 「Tさんの暴行も…私が、『ともだち』に指示しました…!」


 千恵美に対する暴行事件への関与も自供。

 多くの関係者が事情聴取を受けることになり、闇に包まれていた『ともだち』の実態が、全て明らかになる。


 


 単なる傷害事件から、100億円を超える闇資金を使った一大犯罪として、マスコミの注目を集めることになった。


 すでにネットを中心に個人情報をばら撒かれ、これからは令和史上最凶の犯罪者として名を残すことになるだろう。

 もちろん、俺や千恵美含む多くの被害者に対する賠償を背負っていかなければならない。


 おそらく、今後の人生全てをかけて。


 それで許される可能性がほとんどなくても。




 この事件は、いつの間にかインターネットで『ともだち事件』と呼ばれるようになった。  

 静谷凛の名前とともに、いつまでも記憶されるだろう。


 「それでは…被害者の方々に向け、何かいうことはありますか?」


 「…はい」


 凛は立ち上がりー、




 「ほんどうに…ほんどうに、ごめんなざぁいいいいいいいいっ!!」


 さめざめと泣いた。


 「ううううううううっ…ぐううううううっ」


 もちろん、これで罪が償われることはあり得ない。


 だが、それでも、謝罪の意を示すことは無駄にはならないだろう。


 俺は、ゆっくりと立ち上がった。


 「…凛」


 「…ひぐっ、うぐっ」


 「罪を償って出所したら、俺に連絡しろ」


 「…え?」


 「お前は永遠の監視対象だからな。オンラインでなら…1年に1度だけ連絡してやってもいい。ちゃんと、人生をかけて償う意思があるなら…年2回までは増やしてやる」


 「えんじぐん…!」


 「あ、勘違いするなよ。ワンチャン復縁とかは絶対ない。絶対な」


 「がーん…」


 「でもな…」


 うつむく凛に、俺は少しだけ優しく声をかけた。




 「かつての幼馴染として、骨ぐらいは、拾ってやる…」


 「…」


 凛は顔をあげ、涙目になりながらも口元を緩ませる。


 「うん…!」


 こうして、凛の事件は急速に終焉へと向かっていった。



 ****



 「どしたの?円二さん」


 裁判のことを回想していると、美也に声をかけられた。


 「…考えことをちょっとな」


 「なるほど。円二さんもお悩みな年頃なんだねぇ」


 「もう思春期ってほどの年齢じゃないけどな。何かあったか?」


 「えーとね…」


 ポニーテールをくるくると巻きながら、美也がはにかんだ笑顔を浮かべた。





 「ちょっとだけ、話したいことがあるの」



  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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