第77話 勝ったんだ!

「…」


 凛はちょうど、柵にこじ開けられた穴の手前で倒れ、動かなくなった。


 何も言葉を発しない。


 表情は暗闇でよく見えないが、死んでいるわけではなさそうだ。

 手をだらりと垂らし、ぐにゃりとした体勢で横たわっている。


 武器の類ももってない。

 

 意識を失っている…?

 

 思い切りラリアットした後で言うのもなんだが、信じられない。

 こいつはこんなことで気絶するタマじゃない。

  

 「円二」


 迷っていると、結愛がこちらをじっと見つめていた。


 「私が支えるから、見に行こうよ」


 「…そうだな。そうしよう。いちちちち!」


 「私が、支えるから。歩ける?」


 「ああ。なんとか、な」


 俺は結愛に支えられて、少しずつ歩みを進めながら、凛の元へ近づいていく。


 「よいしょ…よいしょ…」


 なるべく気を遣っているが、結愛の小柄な体では少し重いらしい。

  

 それを見て微笑ましいと同時に、頼もしく感じる。




 出会ってから約1年。

 結愛も成長したのかもしれない。

 

 「きゃ…もう、どさくさに紛れて肘で胸触ったでしょ。がるるるるる…」


 「悪い。わざとじゃないんだ」


 「…お願いしたら触らせてあげなくもないけど」


 「なんか言ったか?」


 「な、なんでもない!」


 義妹をからかいながら、2人で凛の所へ向かう。


 「…」

 

 かつての幼馴染にして宿敵。

 足で触れられるぐらいまで近づいても、なんの動きも見えなかった。


 辛うじて胸が上下しているのを確認できるだけ。


 完全に意識を失っているようだ。


 「これって…」


 「ああ。恐らく…」


 俺は恐る恐る、結論を下す。


 


 これまでずっと苦しめられてきた相手。

 諸悪の根源。

 クソでは片付けられないほどの悪女。

 嘘つき。 

 騙し討ちウーマン。

 残る人生一生償い。

 懲役30年はほしい。

 反省した演技だけは一丁前。 


 とにかく徹底的に嫌なやつ。




 そんな存在だった静谷凛が、倒れている。


 つまりー、

 



 



 俺たちの勝利だ。


 「やったぞ!!!」


 夜の屋上で高らかに宣言する。


 テンションが上がるあまり、涙が溢れてきた。

 それを拭うこともしない。


 嬉しい。

 とにかく嬉しい。


 みんなの笑顔を奪ってきたやつにリベンジができたんだ!


 「やったね円二!!!私たち…ううん、みんなの力を借りて、やったんだ!!!」


 結愛も瞳を潤ませながら、嬉しそうに声を弾ませる。

 お互いに見つめ合いながら、熱い視線を交わしてー、




 喜びをキスで表現した。



 ****



 「円二さん!!!結愛ちゃん!!!もうすぐで開けるからねー!!!」


 「円二くん!無事なの!?返事してくれないと…ぼくも後を追うからね!!!」


 「だからそれはだめ〜〜〜!!!」


 数分後。


 俺たちは背後からの声で我に帰る。

 美也と千恵美が相変わらず大声を叫び、扉をこじ開けようとしていた。


 「よっしゃあ!!もう少しで扉が開くぞ!!」


 「丸山兄妹を絶対に死なせるな!」


 「先生おそーーーい!!!予備の鍵まだなの〜〜〜???」


 よく聞くと、他の生徒の声も聞こえる。


 学園祭の前夜祭に迷惑をかけてしまったのに、駆けつけてくれたようだ。


 感謝の言葉しかない。


 「サイレン、聞こえるね」


 結愛がぽつりとつぶやいた。


 耳を澄ますと、遠くから確かにパトカーのサイレンが聞こえる。


 警察がやってきたのだろう。


 あとは高井と凛を引き渡して、解散するだけだ。

 俺たちは気絶した凛に背を向ける。


 「じゃあ、行こっか」


 「ああ。先生にたっぷり怒られにいくよ」


 「その前に病院でしょ?」


 「そうだな。怪我はないか?」


 「ううん。全然。円二が守ってくれたから…」


 涙を拭い、結愛が笑顔を浮かべる。


 「私、円二の家族で、円二の彼女になれてよかっ…」







 背後に人影。

 

 結愛よりも背が大きい。


 憤怒と怒りの表情。

 傷だらけの顔。

 張り手打ちされて赤くなった頬。

 ボロボロの服。


 俺の幼馴染。




 静谷凛。


 「きええええええええええええええいいいっ!!!」


 奇声をあげ、きょとんとした表情を浮かべている結愛の制服の袖を掴む。


 そして、グイッと引っ張った。


 後ろに。

 思い切り踏ん張って。


 その先にはー、




 屋上のその先。


 真っ暗闇の奈落。

 落ちたらひとたまりとない、死の場所。


 「あはははははははははははあっ!!!」


 凛は高笑いを浮かべながら、結愛と共に、地面へと落ちていく。


 ゆっくり。


 だが、確実に。

 宙を舞いながら。


 





 このままではー、




 2人共、死ぬ。


 

 ****


 

 【side:凛】


 最後のプランは、最終手段。


 発動することはないだろうと思っていた。


 私が主人公の地位を失い、円二に裏切られ、騙し討ちにしようとするも敗北した時に発動すると決めていた。




 …そのために、気絶したふりの演技を何日間もした。


 その時の円二君の泣き顔を想像しながら。


 


 さぁ、そろそろプランDを発動しましょう。


 それはー、





 円二君から、アバズレを永遠に連れ去ること。



 

  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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