第78話 死じゃない

 結愛が落ちていく。

 気味の悪い笑顔を浮かべた凛と共に。

 

 落ちれば、永遠の別れになってしまう。


 まだ、一緒にやりたいこと、伝えたい言葉、沢山あるのに。

  

 また、一人ぼっち。


 「そんなの…嫌だ!!!」


 俺は勢いよく飛び出した。

 アドレナリンが流れているのか、痛みは全く感じない。


 体がどうなっても構うものか。


 「結愛!!」


 奈落の底へと落ちていく大切な存在を救うため、手を伸ばす。

 一瞬のはずなのに、永遠にも思われる、長い時間。


 「円二…!!!」


 結愛もそれに応え、小さな手を必死に伸ばした。

 少しずつ近づく義妹の小さな掌。


 そしてー、




 「ぐっ…!」


 闇へと消えてしまう直前に結愛の右手を掴んだ。

 忘れていたはずの激痛が全身を襲うが、なんとか踏ん張る。

 左手も添え、なんとか落ちないように支えることができた。


 結愛の細い体がふらふらと揺れる。


 「大丈夫か!?」


 「へ、平気…!」


 一瞬目を白黒させていた結愛だったが、俺の呼びかけに答え、よじ登ろうとする。


 だができない。

 何度試してもほとんど動きがない。


 「踏ん張れ!」


 「円二、だめ!あたしの力じゃ無理…!」


 「待ってろ!俺の力で…くそっ!」


 俺も全力を振り絞るが、結愛の体を引き上げることができない。

 重すぎるからだ。

 

 それもそのはずー、







 「いっーーーひっひっひっひっひっ!!!どうかしらぁ!?私のプランDの恐ろしさはぁぁぁぁぁ!?」


 結愛の腰に凛がしがみついているからだ。


 かなり腕力がいるはずなのだが、色んな意味でリミッターが外れているのか、しっかりとしがみついて離れなかった。


 「やめてください凛さん!このままじゃ2人とも…!」


 「ほらほらほら!」


 「くぅ…だめ…力が…」


 「一緒に落ちるならそれでも結構!!私と一緒に地獄行きよぉおおおおお!」


 結愛の言葉にも凛は耳を貸そうとしない。


 それどころか、ゆさゆさと自らの体を揺らし、結愛の体力を奪って落とそうとしていた。

 俺も両腕を刺されて力があまり出ないので、引き上げられない。


 こいつが何を目論んでいるのか、もはや言うまでもないだろう。




 自分が破滅する代わりに、結愛を道連れにすること。


 「凛!!!どこまでもクズなんだお前は!!!」


 俺は結愛を両腕で支えながら叫んだ。


 どこまでも最低な人間であることは知っていた。

 だが、せめて生きたまま裁いてやろうと思っていたのに。


 全てを拒絶して逃げようとしている。


 どこまでも、卑劣なやつだ!!


 「仕方ないでしょ〜〜〜〜?あなたが私を受け入れないんだから〜〜〜???」


 「お前が受け入れられると思ってるのか!多くの人間を傷つけ、騙し、利用したんだぞ!!!」


 「知ったこっちゃないわね〜〜〜ギャハハハハハ!!!全てはあなたを手に入れるためにやったこと!!それを受け入れないというなら、せめてこのアバズレをあなたから永遠に奪ってやるわ〜〜!!!」


 「このアマ…!!さっきのラリアット、もう3発打っておくべきだった…!!!」


 「おーほっほっほっ!あなたの愛を得られない世界なんて未練ないわ〜〜〜〜!!地獄で転生してまたあなたに会いに行ってやる〜〜〜!!」


 凛はさらにゆさゆさと体を揺らし始めた。


 結愛が落ちないようにさらに力を振り絞るが、徐々に手の力が抜けてきた。


 体の痛みが激しくなり、意識が朦朧とする。


 だめだ…




 絶対に、救わないと。


 「…円二」


 「ああ、もう少し待ってろ!結愛もそのクソ女を蹴っ飛ばして…」


 「…捨てて」


 「なんだって?」


 結愛は大量の汗をかきながら、微笑んだ。




 「あたしのことは、見捨てて…」



 ****



 「何を、言ってるんだ!!」


 俺は声を絞りだした。


 「そんなことできるわけないだろ!」


 「だめ、だよ。このままじゃ、みんな落ちちゃう。円二だって…そんなの、いや…」

 

 結愛の体から力が抜けていく。

 絶望的な気持ちになるのを必死に抑え、支え続けた。


 「大丈夫だ!俺がなんとか助けてやる!だから諦めるな!」


 「あたしも、諦めたくないよ。でも、円二は、死んでほしくない…!」


 「嫌だ!俺たち2人で絶対、みんなの元に帰るっていっただろ!結愛が諦めても、俺は絶対に諦めない!」


 「円二は、優しいんだね…そういうところ、私、好きだな…楽しかったよ、円二とずっと、一緒にいれて…幸せ、だった…」


 「結愛…!」


 「だめ…もう、力が…円二…」


 必死に呼びかける俺を嘲笑うかのように、再び凛がゆさゆさと体を動かした。


 「もうすぐ終わりねぇぇぇ…私を愛してくれる人間は、この世にもういない!最後に、私が愛したかった円二君の大切な人を、奪ってやるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 「愛…だと?」


 「そうよぉ!!!」


 凛は有らん限りの声で叫んだ。


 「私は真実の愛のために、あなたに全てを捧げた!!!なのに受け入れられなかった!!だから…死ぬしかないのぉぉぉぉぉぉ!!!」


 「くだらないこと、言うな…」


 「なんですって…?」


 俺は最後の力を使って、ポケットに手を伸ばす。


 そしてー、




 「お前のいく先は…死じゃない。生き地獄だ」


 凛のピンク色のスマホを、取り出した。



 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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