第76話 俺たち2人の分

 【side:凛】


 「甘いねぇ!!!坊やは!!!」


 私は隠し刃を取り出し、円二の脇腹を突き刺そうとする。


 4つ用意したプランのうち3番目のプラン、プランC。

 私自身が裏切った円二君にとどめを刺す。


 単純かつ効果的な解決策。


 しかし…


 予想通りだったわ!

 円二君は甘さを捨てられない人!

 どこかで絶対に隙を見せるって!


 そう信じてたから、高井に追い詰められた時もギリギリまで出さなかった。


 「きゃはははははははははははははっ!!!」


 私は高笑いが止まらない。




 そう!!


 最後に勝つのは私なの!!


 ヒロインをアバズレに寝取られても!!!

 主人公じゃなくなっても!!!

 奴隷たちに裏切られても!!!

 悪役に堕ちても!!!

 最後の手駒を失っても!!!


 絶対に私は勝利する!!!


 「私のものにならないなら…死になさああああああああああいっ!!!」


 もう少しで脇腹に届く。

 

 もう少し。

 あと少し。




 残り1ミリ!!!




 パシッ!


 「…んあ?」


 おかしい。


 なぜか手が動かない。

 円二君の脇腹に届かない。


 なんで。


 なんで!


 なんでっっっっ!?


 「…許さない」


 冷気。

 異常なまでの。

 燃え上がるような。


 振り向くとー、




 「どこかで、私は凛さんを信じていた…きっと、最後には正気を取り戻してくれる。罪を償ってくれるって…」


 結愛だ。


 丸山結愛。

 私の野望を打ち砕いた女。

 全ての元凶。


 最初は、私と円二君の脅威になるはずなんてないと思ってた。


 なのに…

 どうして?




 どうしてこの静谷凛がっ!!


 「でも…円二を本気で傷つけようとした今、完全にあなたを見限りました…もう、同情なんてしません…」


 「は、離せっ…ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 「絶対に…離さない!!!」


 「小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 信じられない!


 この私が、小娘に力負けして、押し返されている!!!

 ありえなぁいいい!!!


 どうしてぇぇぇぇ!!!

 

 なんでぇぇぇぇぇっ!!!


 「いやぁあああああっ!!!」


 遂に私は隠し刃を奪われてしまった。


 結愛に勢いよく投げ捨てられ、股間を潰された高井を乗り越え、地面へと落ちていく。


 「許さない…!!!」


 「ひぃ!!!」


 「絶対に…!!!」


 怯える私を睨みつけながらー、




 「許さない!!!」


 「お助け…へぶぅぅううううううっ!!!」


 強烈なビンタを繰り出してきた。



 ****



 パシッ!


 「これは鮎川さんの分!!!」


 パシッ!


 「これは原田さんの分! 


 パシッ!


 「これは静谷夫妻さんの分!!!」


 ビンタ。

 ビンタ。

 ビンタ。


 あれほど優しかった結愛が。

 人懐っこい笑顔を浮かべる結愛が。


 怒りのままに凛にビンタを喰らわせている。


 怒っている表情もいつもは微笑ましいのだが、今日はさすがに凶暴のようだ。


 「ぶべらぁぁぁぃぁあああああっ!!!」


 凛はなすすべもなくビンタを受けている。


 何発も。

 何発も。

 何発も。


 「そしてこれは…」


 最後に、一際大きく振りかぶってー、




 「あなたに人生を無茶苦茶にされた、円二の分だぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」


 「ぎゃああああああああああっ!!!」


 一際大きい一撃を食らわせる。


 凛は大きく吹っ飛び、屋上に叩きつけられる。


 そのタイミングで、俺は結愛に呼びかけた。


 「結愛!それぐらいでいい」


 「はっ…あたしったら何を…」


 凛は我にかえり、罰が悪そうな表情を浮かべる。


 「怪我、大丈夫?」


 「ああ。これぐらいなら大したことない。高井も腰が引けてたから、浅く刺さっただけだ」


 「よかった…」


 俺たちは抱き合った。


 目撃者のいない屋上で。

 しっかりと。

 

 お互いを永遠に離さないように。


 さっき凛に抱きしめられた時に感じた異様な冷たさは感じない。


 心がぽかぽかとして、暖かい。

 



 「ぐぅぅうううう…」


 その時、凛の声が聞こえた。


 うめき声を上げながら立ち上がり、隠し刃に手を伸ばそうとしている。


 すでにかなり遠くにいた。


 「わだじば…まだ…」


 なかなかにしぶとい。

 まあいいさ。




 償いは、これからたっぷりしないといけないんだから。

 そう簡単にギブアップされちゃ困る。


 「…結愛。次はこういう感じでだな」


 「ふむふむ…分かった!それで行こう!」


 小声で話し合ったあと、俺たちは両手を繋ぐ。 


 そしてー、


 「…凛!」


 「凛さん!」


 ゆっくり。

 確実に歩き出す。


 徐々にペースを上げ、タッタッと足音が鳴るまで、息が切れるまで。 


 「「うおおおおおおおおおおおっ!!!」」


 「ひいっ!く、来るなあああああああ…!!!」


 まだナイフを拾えず怯える凛を目の前に捉えー、




 「「これは、俺たち2人の分だあああああああっ!!!」」


 勢いよくラリアット。


 「ごばぁぁあああああっ!!!」


 再び凛の体が宙を舞う。


 ぐにゃりと床に崩れ落ち、情けない顔を晒した。




 「…ご、ごばぁ」


 そしてー、




 完全に動かなくなった。

 


  ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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