第75話 予想通りだった

 「「「うぉおおおおおおおおおっ!!!」」」


 俺たち3人は、ナイフを持った高井に突っ込む。


 俺が先頭。

 凛がその次。

 最後が結愛。


 全力疾走で。

 狭い通路をくぐり抜けながら。


 生きるために。


 「うぉっ!?」


 高井は突然突進してきた俺たちに面食らった。


 体制を立て直そうとするがまごついてしまい、腰を引いてしまうのが暗闇でも見える。


 無理もない。


 ここでバランスを崩せば死に繋がるのだから。


 こいつにそこまで覚悟はない。

 ただ復讐ができると前のめりになっただけ。


 「く…くそおおおおおおおおっ!お前のような陰キャなんかにぃぃぃいいいいいい…!!!」


 ようやくナイフを繰り出してきたのは、俺が目の前に迫ってから。


 右手で握りしめたナイフで、俺の心臓を一突きにせんと繰り出してくる。

 

 刺されば、確実な死。


 千恵美を助けた時のように足技は使えない。


 ここは狭すぎるので、下手に足を繰り出すと、バランスを崩して落下してしまう恐れがある。


 「死ねぇぇええええええええ…!!!」


 だからー、




 左腕で防いだ。

 激痛、吐き気、腕の熱さ。


 全てを顧みずに踏みとどまる。


 結愛のために。


 「なあっ!?てめぇ…」


 動揺し足を止める高井に向け、俺は首を傾けた。




 そして、頭突き。


 「ぎゃっ!?」


 鼻血を出しながらバランスを崩し、よろめく高井。


 俺は力一杯叫んだ。


 「今だ!!!」

 

 「言われなくても!!!」


 凛が。


 「みんなが…生き残るために!!!


 結愛。

 

 3人の力で精一杯押し、ひるんだ高井をずるずると後退させていく。


 「や、やめろ!!こんな所で押し合ったら…!」


 「覚悟の上だ!!!」


 「くそ…くそおおおおおおっ!!!」


 高井はナイフを戻そうとするが、俺の手に突き刺さったまま戻らない。


 動揺から戻れぬままジリジリと後退し、柵の入り口まで追い詰められる。


 そしてー、


 「くそっ!!!」


 ついに高井がナイフを手放し、柵の入り口から屋上に飛び込んだ。


 一旦安全な場所に引いて体制を立て直そうとしている。


 だが、もう遅い。


 「うおりゅああああああああ!!!処女あげたくせに裏切りやがってええええええ!!!この粗チン野郎ぉおおおおおおおっ!!!」


 後ろに控えていた凛がすぐさま飛び出し、高井に飛びかかる。


 「ぎゃああああああっ!やめ…おぶっ!」


 「おりゃおりゃおりゃおりゃあああああああっ!!!」


 「うぐおおおおおおおっ!!!」


 あっという間に高井を押し倒し、やたらめったら殴りかかった。

 高井にダメージが入るが無力化までは至らない。


 「このぉ…!!メスブタぁあああ!!!」


 高井は傷だらけになりながらも徐々に押し返し、逆に凛を押し倒そうとする。


 それを見て、俺は叫んだ。




 「結愛!今だ!!!」

 

 「うん!!!」


 最後尾にいた結愛が飛び出す。


 狙いは、いまだ凛に押し倒されている、高井の股間。

 

 すらっとした足が勢いよく振り下ろされー、





 「!?!?!?!?!?!?!?」


 高井の声にならないと共に、何かがぐにゃりと潰れる音がした。



 ****


 

 「やったか!?」


 「た、多分…やったかも」


 訪れた静寂。


 高井は完全に動きを止めた。

 声ひとつあげない。


 「この!この!このぉ!!!」


 凛が馬乗りで殴り続けても反撃はなし。


 どうやら安全のようだ。


 

 

 安堵した時、左腕に痛みが走る。


 高井に刺されたナイフが突き刺さったままだ。

 結愛が床に落ちていた凛のナイフをそっと拾い、こちらに走る。


 「く…」


 「円二!大丈夫!?」


 「ああ、なんとかな…いでででで」


 「早く病院で手当を受けないと!」


 「心配するな…お兄ちゃんはこのぐらいじゃ死なな…いででででで!」


 「ぬ、抜いちゃダメなんだからね!血がいっぱい出るって本に書いてあった!」


 「分かってるさ」


 「もう、私が手当したばっかりなのに無茶して…」

 

 血は流れているが死ぬほどではないだろう。


 俺はあたふたする結愛を見て微笑ましく感じるが、そうしてばかりはいられない。


 「結愛…そろそろ俺のことはいい。それよりも…」


 無事な右手で前方を指差す。


 


 いつの間にか一言も喋らなくなっている凛だ。

 気絶した高井を無言で見つめている。


 そしてー、



 「…なさい」


 「ん?」


 「…ごめんなざぁあああい!!!」


 泣き出した。

 

 「私が悪かったわぁ!!!あなたのことを騙したり、酷い目に合わせたり、友人を傷つけてごめんなさぁい!!!私が…私が馬鹿だったの!!」


 号泣し、とめどなく涙を流しながら、ゆっくりとこっちに向かう。


 「私、罪を償うわぁ!!!みんなにも謝る!!死ぬまで償う!!原田さんにも土下座する!結愛ちゃんも…ごめんなさぁああああああい!」


 ここまで泣く凛の姿を見るのは初めてだった。


 そしてー、




 「だから…せめて、最後にあなたの温もりを…」


 抱きついてくる。


 何も言わず、無言で受け入れた。

 俺も両手を伸ばし、凛の背中に手を回そうとする。







 「甘いねぇ!!!坊やは!!!」


 凛が豹変した。


 靴下に手を入れ、先の尖ったペンのような刃を取り出す。

 俺の脇腹に突き刺すつもりらしい。




 予想通りであった。



 ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

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