第73話 俺と…

 「な、何言ってるの!!!」


 「それはこっちのセリフだ。お前に巻き込まれなければ暴力事件を起こす事もなく、退学にもならなかった!俺が一番復讐したいのはなぁ、お前なんだよ!!!」


 「こ、この…恩知らず!役立たず!!ゴミィーーーーー!!!」


 「うるせえええええええっ!そんなに刺し殺されたいか!?」


 「ひいいいいいいっ…」


 「ほら、さっさと行けよ。お前も、円二や結愛と一緒にあの世行きだ…!


 協力したかに思われた二人は、あっさり仲間割れをはじめた。

 不意打ちして凛のナイフを奪った高井は、彼女をナイフで脅しながら、柵の向こうへと追いつめていく。


 「くそぉおおおおおおおおおっ!!!」


 憤慨する凛であったが、もはやどうすることもできない。

 あっさりと俺と結愛のいる場所に追いやられるしかなかった。







 何となく、こうなる予感はしていた。


 高井が時折殺気に満ちた目で凛を睨んでいたからだ。

 無理もない。


 つまるところ高井も凛の被害者と言える。


 がー、




 最早その立場をかなぐり捨て、高井も加害者となる道を選んだらしい。

 同情する余地はないと言ったところか。


 「円二、血が…」


 背後から心配そうな結愛の声。

 振り返ると、先ほど高井に刺された時の傷を見つめていた。


 そういや、さっき刺されてたっけ。


 「大丈夫だ。これぐらいなんとも…いてててて」


 「無理しちゃダメ。動かないで」


 ビリリ。


 結愛はスカートの裾を一部引きちぎり、簡易的な包帯を作った。


 そして、俺の腕へ丁寧に巻き、止血する。

 かなり手慣れているようだ。


 「…いつのまにか練習したんだ?」


 「円二が見てないところで、こっそりとね。いつか絶対無茶すると思ってたし。その時は絆創膏じゃ足りないでしょ?」


 そういえば、最初に手当てしてくれたのは高井と喧嘩した時だった。

 あの頃から長い時が経ったような気がする。


 「いちちちちちち…!」


 感傷にふけるまもなく、腕にキツく巻かれるスカートの裾。


 「おい!手当ってのはもう少し優しくだな…」


 「こんな状況でぼーっとしてるからでしょ!もう、2人とも死ぬかもしれないってのにさ」


 「ぐぬぬぬ…」


 あっという間に止血作業を完了。

 心なしか痛みが引いた気がする。


 「どう?」


 「ああ。まだ行けそうだ。ありがとう、結愛」


 「全く、無茶ばかりするんだから…」


 俺の無事を確認したら結愛は、はにかみながら笑顔を浮かべた。




 「でも、いつも誰かを守るために無茶する所、嫌いじゃない…」


 「結愛…」


 そうだ。


 俺たちはここで死ぬわけにはいかない。


 卒業してもやりたいことはいっぱいある。

 結愛と同じ時間を、同じ空間を、同じ体験を共有したい。


 結愛と一緒に、生きたい。


 そのためにはー、




 「くうううううううう…ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ…ここここここのぉおおおおおおおおおっ!!!」


 この女を、一時的に利用するしかないか。



 ****



 【side:凛】


 どうしてどうしてどうしてぇ!!!


 どうして私ばっかりこうなるの〜〜〜!!!

 高井の奴…私の処女までくれてやったのにこの恩知らずが〜〜〜!!!


 「ほら、なんならお前から先に落ちるか?」


 高井は意気揚々とナイフを持って私に近づいてくる。


 背後に逃げ場はない。  

 あと2、3歩下がればまっさかさまだ。

 転落防止用の段差があるとはいえ大した高さではない。


 高井が私を突き飛ばせば、真っ逆さまに落ちる。


 左右に逃げることはできるけど、高井が柵の中に乗り込んできて、徐々に端まで追い詰められたら逃げ場がない。

 柵は3メートルほどあり、乗り越えて逃げるには高すぎるからだ。


 どのみち、落ちるつもりがないと分かれば、高井は容赦なく私の体を滅多刺しにするだろう。


 「ひひひひひひひ…!いいんだぜ?落ちたくないなら、滅多刺しにされて、血の海の中でのたうち回りながら死んでもらってもよぉ…」


 こいつの血走った目は本気だ。


 くそっ!!!


 


 最悪私が死ぬのはいい。


 でも…





 円二君とアバズレの破滅を見る前に死ぬのは嫌だ〜〜〜〜〜〜!!!


 どうすれば…!




 どうすれば私はハッピーエンドを迎えられるの!!!


 





 「ざまぁないな、凛」


 その時。


 左側から声が聞こえた。


 円二君と、アバズレ。




 うぜぇ。

 何手ぇ繋いでんだ。

 リア充してるんじゃないわよこんな時に。


 「けっ!もうすぐ死ぬのに呑気なものね!」


 「1つ、聞きたい」


 「ああ?」


 「どうして高井は『ともだち』にしなかった?」


 ちっ。


 よく分かんないけど答えてやるわよ。




 「あいつはねぇ。最初から私に好意を示して接近してきたの!陰キャのあんたと違ってね。だから、お金をあげて操る必要なんてなかったのよ。ま、別クラスだったこともあるけどね」


 「そうか…じゃあお前にお似合いじゃないか。お金がなくても簡単に操れる男。お前にピッタリと男だな!」


 「なんですってぇ!!!」


 そのまま憎たらしい円二に飛びかかろうとしたけどー、




 「うるせぇ!さっさと飛びおりるか、刺し殺されるか、どっちかにしろや!」


 高井にさらにつめよられ、突き落とされそうになる。


 「ぐううううううううううっ…」


 そんな私を見て、円二はにやりと笑った。




 「俺と手を組まないか、凛」

 


    ****



  相変わらず癖の強い作品ですが、もし気に入れば応援や☆、フォローを頂けると嬉しいです!遅ればせながら第7回カクヨムWeb小説コンテストにも応募いたします。


 新たに「☆1000で電子書籍化」という目標を掲げることにしました!今後もコンスタントに更新しますので、よろしくお願いします!

 



 

 

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